沖縄県の泡盛産業を徹底解説|600年の歴史と製造工程・現状・課題

泡盛とは何か?日本最古の蒸留酒の概要

 泡盛(あわもり)は、沖縄県で製造される伝統的な蒸留酒です。日本に現存する蒸留酒の中で最も古い歴史を持ち、琉球王国時代の15世紀頃から製造されていたとされています。現在では、沖縄県内に47の酒造所が存在し、それぞれが個性豊かな泡盛を製造しています。

 泡盛は本格焼酎の一種に分類されますが、その製造方法には大きな特徴があります。原料にタイ米(インディカ米)を使用し、黒麹菌によって米麹を作り、全麹仕込みという独特の製法で造られます。この製法は500年以上前からほとんど変わっていないといわれており、琉球の伝統文化を色濃く残しています。

泡盛の歴史:琉球王国時代から現代まで

 泡盛の起源については、14世紀後半頃にタイ(シャム)から伝来したという説が有力です。琉球王国は当時、中国や東南アジアとの交易が盛んで、その過程で蒸留技術が沖縄に伝わったと考えられています。

琉球王国時代、泡盛の製造は首里の「首里三箇(しゅりさんか)」と呼ばれる三つの村に限られていました。これらの地域で造られた泡盛は王府の管理下に置かれ、中国への進貢品や薩摩藩への献上品として用いられるなど、外交上の重要な役割を果たしていました。

 明治時代以降、自家醸造が禁止され共同製造場が生まれました。第二次世界大戦では沖縄戦により多くの酒造所が被害を受けましたが、戦後復興とともに泡盛産業も再興を遂げました。1972年の本土復帰以降は、沖縄県産酒類に対する酒税の軽減措置が設けられ、産業の発展を支えてきました。

沖縄県内の泡盛酒造所の分布

沖縄県酒造組合に加盟する酒造所は、以下のように地域ごとに分布しています。

地域主な酒造所数特徴
那覇・南部エリア約12社瑞泉酒造、久米仙酒造、まさひろ酒造など大手が集中
中部エリア約5社神村酒造、比嘉酒造など
北部エリア約12社ヘリオス酒造、やんばる酒造など
宮古エリア約6社多良川、菊之露酒造など
八重山エリア約10社八重泉酒造、請福酒造など
久米島エリア2社久米島の久米仙、米島酒造

泡盛の製造方法:黒麹菌とタイ米が生み出す独自の味わい

 泡盛の製造工程には、他の焼酎とは異なる大きな特徴があります。ここでは、泡盛独特の製造方法について詳しく解説します。

原料の特徴

 泡盛の主な原料はタイ米(インディカ米)です。大正末期からタイ米の輸入が始まり、昭和初期には泡盛の原料として沖縄の地に定着しました。それまで使用していた中国からの輸入米(唐米)の価格が高騰したため、質の高さを保てる主原料を求めてたどり着いたのがタイ米でした。

 インディカ米は日本のジャポニカ米と比べて細長く、粘り気が少ないのが特徴です。この性質が、黒麹菌の繁殖に適しており、泡盛独特の風味を生み出す要因となっています。

製造工程の詳細

 泡盛の製造は、以下の工程で行われます。

1. 洗米・浸漬 タイ米を洗い、水分を吸収させるために水に浸します。この工程で米に適度な水分を与えることで、次の蒸米工程での蒸し上がりが均一になります。

2. 蒸米 十分に水切りした米を、蒸米機で約1時間かけてムラなく蒸し上げます。この工程により、米のデンプンがα化され、麹菌が繁殖しやすい状態になります。

3. 製麹 蒸し上がった米を適温まで冷やした後、泡盛独特の黒麹菌を散布します。黒麹菌は沖縄の高温多湿な気候に適した麹菌で、大量のクエン酸を生成することで雑菌の繁殖を防ぎます。製麹室と呼ばれる特別な部屋で、温度や湿度管理を徹底しながら麹菌を繁殖させ、米麹を作ります。

4. 仕込み(全麹仕込み) 泡盛の最大の特徴が「全麹仕込み」です。他の焼酎では原料の一部のみを麹にするのに対し、泡盛では原料米のすべてを麹にします。この米麹全量に水と酵母を一度に加えて仕込むことで、黒麹が作り出す大量のクエン酸が雑菌の繁殖を防ぎ、アルコール度数の高い泡盛に仕上がります。

5. もろみ(発酵) 仕込んだもろみを約2週間発酵させます。この間に、麹の酵素によって米のデンプンが糖に変わり、さらに酵母によって糖がアルコールに変換されます。

6. 蒸留 発酵が終わったもろみを単式蒸留機で蒸留します。この工程で、アルコール分や香味成分を抽出し、泡盛の原酒が完成します。蒸留後のアルコール度数は通常45度以下に調整されます。

製造工程の比較図

工程泡盛一般的な焼酎
原料タイ米(インディカ米)芋、麦、米など
麹菌黒麹菌白麹菌、黄麹菌など
仕込み方法全麹仕込み(一次のみ)二次仕込み(麹と主原料を分ける)
発酵期間約2週間約10日~2週間
蒸留方法単式蒸留単式蒸留

古酒(クース):時を経て深まる泡盛の魅力

 泡盛の最大の魅力のひとつが、長期熟成によって生まれる古酒(クース)です。古酒とは、3年以上熟成させた泡盛のことを指します。2015年8月1日からは、全量が3年以上貯蔵されたものに限って「古酒」の表示が認められるようになりました。

古酒の定義と熟成の仕組み

 泡盛は油性成分が多く含まれているため、瓶詰め後も熟成が進み続けるという特徴があります。この点が、樽から出すと熟成が止まるウイスキーやブランデーとは大きく異なります。熟成が進むにつれて、バニラのような甘い香りが出始め、さまざまな香りを醸し、豊かな風味を増していきます。

仕次ぎ(しつぎ)の技術

 沖縄には「仕次ぎ」という伝統的な古酒育成方法があります。これは、年数の異なる複数の甕(かめ)を用意し、最も古い「親酒」から汲み出した分を、次に古い甕の泡盛で補充し、その甕から減った分はさらに若い甕から補充するという方法です。

 この仕次ぎによって、親酒の品質を保ちながら永年にわたって古酒を楽しむことができます。家庭でも実践できる方法として、3升から1斗の甕を用意し、年に一度程度、飲んだ分と自然蒸散した分を若い泡盛で補充していくことで、自分だけの古酒を育てることが可能です。

沖縄県泡盛産業の現状:統計データから見る実態

沖縄県酒造組合が公表した令和6年(2024年)のデータから、泡盛産業の現状を見ていきましょう。

生産量・出荷量の推移

 令和6年の泡盛製成数量は11,751キロリットル(30度換算)で、前年比12.4%の大幅減少となりました。移出数量は12,445キロリットルで、前年比3.3%減と2年連続の減少となっています。

年度製成数量(kL)移出数量(kL)前年比
令和2年12,46613,817
令和3年13,46412,679△8.2%
令和4年14,33713,317+5.0%
令和5年13,40912,864△3.4%
令和6年11,75112,445△3.3%

 この減少の背景には、世界的な米不足や円安の影響により、原料米(タイ米)価格が令和6年中に約16%も高騰したことが大きく影響しています。

酒造所の規模別分布

 沖縄県内の泡盛酒造所44社(令和6年データ)を製成数量規模別に見ると、小規模事業者が多いことがわかります。

製成数量規模事業所数割合製成数量(kL)割合
100kL以下25社56.8%9656.7%
100~200kL8社18.2%1,1548.1%
200~400kL6社13.6%1,83612.8%
600~2,000kL4社9.1%5,64739.4%
2,000~5,000kL1社2.3%2,14915.0%

 200キロリットル以下の小規模事業者が全体の75%を占める一方で、製造量としては全体の18%にとどまっています。逆に、600キロリットル以上の5社で全体の54.4%を製造しており、産業構造の二極化が見られます。

経営状況の厳しさ

 令和6年度の経営状況を見ると、44社のうち半数を超える24社が営業赤字となっています。泡盛製造業全体の営業利益も▲149百万円と、前年度にわずかながら黒字化したものの再び赤字に転落しました。

泡盛産業が直面する課題と今後の展望

沖縄の泡盛産業は、いくつかの大きな課題に直面しています。

酒税軽減措置の段階的廃止

 最も大きな課題が、酒税軽減措置の段階的廃止です。1972年の本土復帰以降、沖縄県産酒類には酒税の軽減措置が適用されてきました。泡盛については35%の軽減措置がありましたが、2024年5月15日から段階的な縮減が始まり、2032年5月15日に完全廃止されることが決定しています。

令和6年5月15日からの軽減率は事業規模に応じて以下のように変更されました。

  • Aグループ(前年度県内移出数量1,300kL超):35% → 25%
  • Bグループ(200kL超~1,300kL以下):35% → 30%
  • Cグループ(200kL以下):35% → 35%(据え置き)

 この軽減措置の縮小により、特に県内市場(移出数量の約8割)において、5月に駆け込み需要があったものの、その後は前年同期を上回ることなく推移しています。

原料価格の高騰

 世界的な米不足や円安の影響により、タイ米の価格が高騰しています。令和6年には約16%の値上がりがあり、製造コストの増加が経営を圧迫しています。

消費者の泡盛離れ

 若年層を中心とした消費者の酒離れ、泡盛離れも深刻です。新型コロナウイルス感染症の影響前の令和元年(2019年)の移出数量16,009キロリットルと比較すると、令和6年は77.7%の水準にとどまっており、「回復道半ば」の状況が続いています。

泡盛産業の振興策:業界の取り組み

これらの課題に対し、沖縄県酒造組合では様々な振興策を展開しています。

ブランディング戦略

 令和3年度に全酒造所が参加して実施した「琉球泡盛ブランディング事業」から生まれたスローガン「あそび心、盛りだくさん。」と業界の使命「泡盛を、沖縄の誇りにする。」を掲げ、若年層や県外・海外への需要拡大を図っています。

観光との連携

 泡盛ツーリズムの磨き上げに取り組んでいます。泡盛ガイドの養成やインバウンド対応を意識した酒造所見学の充実、県内外の飲食店イベントの開催などを通じて、泡盛の認知度向上を目指しています。

海外輸出の強化

 令和3年度に組合内に設立した「琉球泡盛海外輸出促進部会」を軸に、海外展開を推進しています。令和6年にはアメリカ、ドイツ、シンガポールでのスピリッツ展示会に出展し、認知度向上に努めています。ただし、令和6年の輸出実績は44.6キロリットルと、目標の100キロリットルの半分以下にとどまっています。

ユネスコ無形文化遺産登録

 2024年12月5日、泡盛を含む「日本の伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。この登録を契機に、マスコミ報道や様々なイベントを通じて泡盛の価値を発信し、需要回復につなげる取り組みが続けられています。

まとめ:伝統と革新の両立を目指して

 沖縄県の泡盛産業は、600年近い歴史を持つ伝統産業でありながら、酒税軽減措置の廃止、原料価格の高騰、消費者離れなど、多くの課題に直面しています。しかし、黒麹菌とタイ米を使った独自の製造方法、古酒(クース)という熟成文化、仕次ぎの技術など、世界に誇れる独自性を持っています。

 県内47の酒造所それぞれが個性豊かな泡盛を製造し、ユネスコ無形文化遺産への登録を機に、新たな価値創造に取り組んでいます。観光との連携強化や海外展開、若年層へのアプローチなど、伝統を守りながら革新を続ける泡盛産業の今後の発展が期待されます。


参考リンク・情報源


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