シニア人材活躍の鍵は、「エンプロイアビリティ」から「プロアクティビティ」への転換

人生100年時代を迎えたシニア人材活用の新潮流
月刊先端教育2026年3月号では、早稲田大学大学院経営管理研究科の竹内規彦教授が、シニア人材活躍をテーマとして、従来の「エンプロイアビリティ(雇われ続ける力)」重視から「プロアクティビティ(先回りの自発的行動)」への転換の必要性について言及されています。
厚生労働省の令和7年高年齢者雇用状況等報告によると、65歳までの雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%に達しています。2025年4月には高年齢者雇用安定法の経過措置が終了し、希望者全員が65歳まで働ける環境づくりが完全に義務化されました。職場では「年下上司×年上部下」が当たり前になり、企業は新たな人材マネジメントの構築を迫られています。
竹内教授は、シニアを「支える対象」として一括りにするのではなく、経験という資源を活かす戦略的視点への転換が必要だと指摘します。その実現には、個人の能力開発だけでなく、仕事の役割設計と関係性のマネジメントが不可欠です。
エンプロイアビリティからプロアクティビティへの転換
エンプロイアビリティとは、「雇用され続けるための能力」を意味します。従来のシニア施策は、学び直しなどによってこの能力を高める発想が中心でした。しかし竹内教授は、現代の職場ではタスク遂行だけでは成果が決まらないと述べています。
現場では「チームへの貢献」「組織への貢献」が同時に求められます。具体的には、知識共有、後進育成、部門間連携、リスクの先回り対応などです。環境変化が激しいほど、改善提案や先回り行動といった「プロアクティビティ」がより強く求められます。
プロアクティビティとは、組織行動論において「個人がとる、自分や環境に影響を及ぼす先見的な行動であり、未来志向で変革志向の行動」と定義されます。竹内教授の研究では、シニア層でもタスク遂行は大きく落ち込まず、職務への熟達志向が高まりやすいことが確認されています。課題は「できない」ことではなく、「何を期待し、どこで貢献してもらうか」が曖昧なまま、力の出しどころが失われる点にあるのです。
シニアの強みが活きる3つの領域
竹内教授はシニアの強みが活きやすい領域として次の3つを挙げています。
1.品質・リスク検知: 長年の経験から培われた「勘」や「違和感」を察知する能力は、品質管理やリスクマネジメントで大きな価値を発揮します。業務プロセスの中で起こりうる問題を事前に察知し、未然に防ぐ役割です。
2.顧客や他部門との連携(リエゾン): 社内外のネットワークを活かした調整役や橋渡し役として、部門間の円滑なコミュニケーションを促進します。人間関係構築力や交渉スキルが求められる領域です。
3.若手の育成・レビュー: 技術や知識の伝承だけでなく、若手が作成した資料のレビューや、仕事の進め方への助言など、メンター的な役割を担います。これらは世代を越えた混成チームで特に重要です。
高齢者雇用の現状と統計データ
現在の高齢者雇用の状況を数字で見てみましょう。
| 項目 | 割合 | 出典 |
|---|---|---|
| 65歳までの雇用確保措置実施企業 | 99.9% | 厚生労働省 令和7年報告 |
| 70歳までの就業確保措置実施企業 | 34.8% | 同上(前年比2.9pt増) |
| 65歳以上定年の企業 | 34.9% | 同上 |
これらのデータが示すのは、企業がシニア雇用の「量的拡大」には対応しつつも、「質的転換」はこれからという現実です
役割設計と関係性マネジメントの重要性
竹内教授によれば、シニアの持続的エンプロイアビリティは、能力(A:Ability)、動機づけ(M:Motivation)、機会探索(O:Opportunity)の3要素で捉えられます。しかし近年の実務課題は、機会(O)の中身が単なる配置ではなく「役割設計」へ移っている点です。
具体的には、シニアに期待する役割を明確にし、その役割においてプロアクティブに行動できるよう、関係づくりで促していく必要があります。年下上司との良好な関係構築、若手メンバーとの協働体制、部門を超えた連携など、人間関係のデザインが成果を左右します。
世代混成チームで成果を出す職場づくり
竹内教授は「シニアを支える対象として一括りにするのではなく、経験という資源を活かすことが重要」と指摘し、世代を越えた混成チームの構築を提言しています。
世代混成チームが機能するためには、次の3つの視点が重要です。
まず、お互いの強みを理解し合うことです。シニアは経験知や判断力、若手は最新知識やデジタルスキルという形で、相互補完的な関係を築きます。
次に、心理的安全性の確保です。年齢に関係なく意見を言い合える雰囲気づくりが、プロアクティブな行動を促します。
最後に、明確な役割分担と共通目標の設定です。曖昧な役割は相互不信を生みますが、明確な役割と共有された目標は協働を促進します。
企業が取り組むべき3つのこと
シニア人材のプロアクティビティを引き出すために、企業は次の3つの設計に取り組む必要があります。
①役割の設計:機能で定義し、裁量を付与する
何を任せ、何を頼るかを言語化し、経験が活きる役割については裁量を付与します。シニアの役割を「肩書き」ではなく「機能」で定義することが鍵です。品質管理、リスク検知、部門間調整など、具体的な成果に直結する役割を明確にすることで、シニア自身が自分の貢献を実感できるようになります。
②関係の設計:貢献を可視化する仕組みづくり
会議運営や1on1、フィードバックの「ルール」を整え、貢献を言葉で可視化します。年齢に関係なく発言機会を設ける、成果や貢献を具体的に言語化して伝えるなど、関係性を支える仕組みが重要です。
③上司の学ぶ機会の設計:年下上司の「やりにくさ」を解消
研修やケース討議などを通じて、年下上司が感じやすい「やりにくさ」を「関わり方の課題」として捉え直します。感情の出し方や伝えるタイミングを身につける感情のマネジメントが、世代を超えたマネジメントの成功につながります。
加えて、人事には「制度で背中を押す」仕掛けが必要です。社内ギグや社内公募で世代混成の課題解決機会を増やす、シニアをメンター「だけ」に固定せず品質・リスク・リエゾン(組織の橋渡し・調整役)など成果に直結する役割を設定する、評価指標に組織貢献(知識共有・育成・連携)を組み込み報いる、若手からの逆メンタリングを含めた相互学習を促す。
こうした環境が整うと、プロアクティビティは「個人の資質」ではなく「職場の『当たり前』の行動」として定着していくでしょう。
【図】シニア活用を推進する3つのポイント(概念図)

まとめ:シニアを組織の強みに変えるために
人生100年時代を迎え、シニア人材の活躍は企業の競争力を左右する重要課題となっています。竹内教授が提唱する「エンプロイアビリティからプロアクティビティへ」の転換は、この課題に対する明確な指針を示しています。
シニアを「雇用保障の対象」ではなく「戦略的資源」として位置づけ、品質管理、部門間連携、若手育成といった強みが活きる役割を明確に設計すること。そして、世代混成チームの中でプロアクティブに行動できるよう、関係性をマネジメントしていくこと。これらの取り組みが、シニアを組織の強みに変える鍵となるのです。

