ステイクホルダー別 人的資本情報開示のメリットと注意点
企業の情報開示の重要性は、それを取り巻くステークホルダーによって、観点が若干異なります。
ステークホルダーは、大きく内部と外部に分類されます。
内部は、経営者、コーポレート(人事などの本社機能)、ライン長、社員に分類できます。
外部は、パートナー会社(業務委託先、サプライヤーなど)、顧客、労働マーケット(採用)、投資マーケット、地域社会に分類すると網羅的になります。
それぞれのステークホルダーについて、企業が人的資源について情報開示をするにあたり、どのようなメリットと注意点があるのでしょうか。
株式会社バージェンス・コンサルティングによると、以下のように整理することができます。
[出所]書籍 『経営戦略としての人的資本開示(HRテクノロジーコンソーシアム編)』を元に著者が作成
ここからは、内部について解説していきたいと思います。
経営者にとってのメリットは、自社の経営戦略の遂行に向けて人事戦略が正しく機能しているのかを人的資本を可視化することによって把握に努めることができます。
重要なのは、ISO30414等のガイドラインに規定されているから開示するという姿勢ではなく、自社の戦略の遂行状況をモニタリングするために先行指標を可視化したいという意識が必要です。
そのため、経営者にとっての注意点は、そのようなモニタリングのために必要な投資を行う必要性の理解と実現すべき覚悟が求められます。
コーポレートの立場として、人事部門を例にとってみると、メリットは経営戦略を実現するための組織・人事戦略がうまく整合性が取れているかを把握できることにあります。また、適切な開示項目を設定できれば同業他社との客観的なベンチマーク比較も可能となり、自社にとってさらなる打ち手の検討材料になります。
注意点としては、人事機能をこれまでの制度設計、人事運用などのオペレーションに加えてマーケティングとR&Dが必要であるという意識改革が必要になります。
ライン長としてのメリットは、マネージャーが負うべき責任範囲がより明確化され、かつ可視化された情報という武器を与えられることにあります。従来にありがちな、部下の育成はライン長の責任との考え方において、数字の裏付けもないといった世界から脱却できます。
注意点としては、部下は会社の大切な資産であるという意識が不可欠です。会社の資産(財産)を増やすことがマネージャーに求められるとしたら、部下の育成は上司である自分の大切な役割の1つであるという意識改革が求められます。
社員としてのメリットは、自身の目指すキャリアに向けて、今の職場がその環境を提供してくれているかを判断する材料になる点です。
注意点としては、社員の前向きな気持ちを後押しするためにも企業としてエンゲージメント向上施策は不可欠であり、社員側も自己のキャリア開発の積極的な姿勢が求められます。
外部については、上記図表のとおりです。