ピープルアナリティクスにおける社内の意識改革
ピープルアナリティクスを実際に進めようとする際に直面するのは、社内からの抵抗です。
以前に比べると人材データの分析・活用に追い風はふいているものの、総論賛成でも実際に進める際には必ずしも賛成しないことも多いでしょう。
〇「データ整備優先」という幻想
最近では、人材データが十分整備されていないので、まずはデータを揃えることから手をつけたいといった意見を聞くことが増えてきています。
確かに質の高いデータがあるに越したことはありませんが、必ずしもデータ整備を先にやらなければならないわけではなく、分析と同時並行で進めることも可能です。
むしろ、トライアルとして小規模な取り組みであれば、どんなに不十分であっても既存データで先行して分析してみることのほうが、効果的な人材データ分析・活用の近道になることが多いです。
〇社内の協力を得るためのプロセス
まずは、新たなデータ入力・収集は最小限にとどめ、できるだけ既存データを使ってクイックウィンを生むことで、人材データ分析に意味がありそうだという感覚を掴んでもらうことが大切です。
そのためには、協力部署の領域を対象にすることは、分析結果が短期的に何かしらの効果につながることが必要です。
例えば、比較的データが蓄積されていることの多い採用領域で、適性検査などの結果から「将来の社内のハイパフォーマーに共通して見られた採用時の特徴」を共有するといったことも効果的です。
また、事業部門に対して、退職者データに基づいて退職要因や数ヶ月後の個人別の退職予測結果を示すことも考えられます。ますは、クイックウィンを生むことで、データ整備に協力してもらいやすくなるでしょう。
〇分析に有用なデータ収集のプロセス
いざデータ整備に着手しようとしても、実はどのようなデータが必要なのかが明確になっておらず、優先順位付けもしないまま、網羅的にデータを収集しがちです。
そこで、まずは少なくてもいいので既存データでできるところまでトライアルとしてやってみるというのがおすすめです。もちろん、分析結果として物足りない面もありますが、一度分析してみることで分析の方向性が見えてくるうえ、本当に欲しいデータが絞られてきます。
[人事においてよく見られる状況]
・人事上の課題対応策に優先順位をつけないまま総花的に取り組んだ結果、リソース不足によって中途半端に終わってしまう。
・人事上の課題対応策のうち、以前から実施していることや、コストがかからず人事関係者で完結するなどの着手しやすい取り組みから手をつけた結果、期待した成果が得られない。
・人事上の課題対応策について明確な意思決定が行われないまま、個人の裁量に基づいて五月雨式に取り組みが先行してしまい、組織として網羅的な取り組みが行われない。
[データ分析によって分かること]
・問題事象が明らかにする影響を定量化
例)社内ハイパフォーマで、今年度中に退職する可能性がある人材は〇%
・問題事象が発生する要因を定量化
例)ハイパフォーマ離職に影響を及ぼしている要因のトップ3
・具体的な施策によって見込まれる効果を定量化
例)どのリテンション施策を実行すると、ハイパフォーマの離職可能性はどの程度減少するか
[データ分析によって実現できること]
・定量的な根拠に基づいて、施策を優先順位づけ
例)短期的:退職リスク高の社員に対し、カウンセリングを実施
中長期的:ハイパフォーマ離職を防ぐマッチングルールに基づく異動の実施
・重点課題を解決するために必要な思い切った投資・リソース投入
例)重点課題に取り組む専任スタッフの配置や人事領域の外部専門家の支援
なんとなくおぼろげに思っていたことが可視化されるというのは、一見大したことがないように思えますが、今まで意思決定や具体的な行動に踏み切れなかった人事部門の背中を押すという一点だけでも、非常に有効です。
このような期待効果をデータ分析開始前から関係者の間で共有しておくことが必要です。