健康経営優良法人(ホワイト500)2026はこう変わる:経営戦略として求められる理由と今後の対策

令和7年度(2025年度)の健康経営優良法人認定制度において、調査表の内容が大幅に変更されました。企業の人事担当者や経営陣の間で「認定取得の難易度が急激に上昇している」との声が相次いでいます。
経済産業省は健康経営の質的向上を図るため、認定要件を大幅に見直しました。これまでの形式的な取り組みだけでは認定取得が困難になっています。
本記事では、これまでの制度の概要から今回の変更点、そして今後企業が取り組むべき対策について詳しく解説します。
これまでの健康経営優良法人認定制度の位置づけ
健康経営優良法人認定制度は、2016年度に経済産業省が創設した制度です。従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に実践する企業を「見える化」することを目的としています。
初回認定は2017年2月21日に「健康経営優良法人2017」として発表されました。大規模法人部門では「ホワイト500」、中小規模法人部門では「ブライト500」という上位認定制度が設けられています。特にホワイト500は上場企業における健康経営のトップランナーとして位置づけられています。
これまでの評価基準
これまでの制度では、基本的な健康管理施策の実施が主な評価対象でした。具体的には以下の施策です:
- 健康診断の実施率向上
- ストレスチェックの導入
- 禁煙対策
多くの企業にとって、既存の福利厚生制度や安全衛生管理体制を整理することで対応可能でした。適切に申請書類を作成すれば認定取得ができる状況でした。
制度の拡大状況
実際、2024年度の認定法人数は大幅に増加しています:
- 大規模法人部門:2,988法人
- 中小規模法人部門:16,733法人
前年度と比較すると、大規模法人部門で312法人、中小規模法人部門で2,721法人の大幅な増加となっています。制度開始以来、順調に増加を続けてきました。
制度の転換点
しかし、制度が9年目を迎え、一定の普及が図られた現在、状況が変わりました。経済産業省は健康経営の「質的向上」に重点を置く方針に舵を切っています。
単に施策を実施するだけでは不十分になりました。その効果を定量的に測定し、経営戦略に組み込んだ継続的な改善サイクルの構築が求められるようになったのです。
令和7年度(2025年度)の主要変更点と難易度上昇の要因
1. 認定要件数の大幅増加と必須項目の拡充
最も大きな変更点は、認定に必要な要件数の増加です。
大規模法人部門の新要件:
- 「必須」項目をすべて実施
- 「評価項目①~⑰のうち14項目以上」を実施
これは実質的に約8割の項目をクリアする必要があることを意味します。これまでは「できる範囲で取り組む」スタンスでも認定取得が可能でした。しかし今後は幅広い分野での本格的な取り組みが必須となります。
新たな必須要件の追加: これまで選択項目だった「40歳未満の従業員の健診データ提供」が必須要件に格上げされました。基本的な健康管理体制そのものの強化が求められています。
健康保険組合等保険者との連携も一層重要になりました。データ連携の仕組み構築が不可欠です。
2. 経営層のコミットメント証明と会議体での意思決定義務化
今回の改正で最も注目すべき点は、経営層の関与に関する要件の厳格化です。
健康経営銘柄・ホワイト500の新必須要件: 健康経営推進に関する経営レベルの会議での議題・決定が必須となりました。単に経営トップがメッセージを発信するだけでは不十分です。取締役会や経営会議での継続的な議論と意思決定のプロセスが求められます。
ホワイト500・健康経営銘柄の追加必須項目:
- 従業員パフォーマンス指標及び測定方法の開示
- トップランナーとして健康経営の普及に取り組んでいること
- 評価結果等の一括開示への同意
これは従来の人事部門主導の取り組みからの大きな転換です。真の経営戦略としての健康経営への転換を意味しています。
3. 効果検証と定量的評価の義務化
従来は「施策を実施している」ことが評価されていました。しかし今後は「施策の効果を定量的に測定し、改善につなげている」ことが重視されます。
新たな評価基準:
- 参加率や実施率の数値把握・記載が必須
- 単なる実施報告では評価されない
- 客観的データでの効果証明が必要
求められる成果指標の例:
- 運動促進施策:参加者の運動習慣の変化
- メンタルヘルス対策:ストレス指標の改善
- 生活習慣改善:健康診断結果の改善
継続的な測定と改善サイクルの構築が不可欠です。また、PHR(Personal Health Record)を活用した環境整備についても新たに評価項目として追加されています。
4. 情報開示の徹底と透明性の確保
健康経営の取り組み内容と成果の社外開示が大幅に強化されます。
開示の必須化: 「健康経営の目的と体制」の対外開示は必須となりました。どの媒体で開示しているかの詳細報告も義務化されます。
上位認定への追加要件: ホワイト500や健康経営銘柄を目指す企業は、「従業員パフォーマンス指標及び測定方法の開示」まで求められます。情報開示に消極的な企業は上位認定の対象外となります。
企業の戦略的転換: 企業は自社の健康経営の取り組みを単なる内部施策から転換する必要があります。ステークホルダーに対するコミットメントとして位置づけることが重要です。投資家や求職者、取引先からの評価を意識した戦略的なコミュニケーションが求められます。
5. ダイバーシティと新領域への対応
従業員の多様性に配慮した施策の充実も新たな要求事項です。
新設された評価項目: 「性差・年代を踏まえた職場づくり」が評価項目に追加されました。以下の対応が必須となります:
- 女性の健康課題への対応
- 高齢従業員への配慮
注目される新領域:
- プレコンセプションケア(将来の妊娠・出産を見据えた健康管理)
- 育児・介護との両立支援
これらについて、法定を上回る独自の取り組みが評価されます。
中小規模法人部門の変更: 昨年度アンケート項目だった「育児・介護と仕事の両立支援」が認定要件の選択項目に格上げされました。認定に必要な選択要件数も15項目中7項目から17項目中8項目に増加しています。
戦略的意義: これらの変更は、単に制度対応のための施策追加ではありません。人的資本経営の観点から従業員一人ひとりのライフステージやキャリア形成を支援する包括的な人事戦略の構築を求めています。
今後企業が取り組むべき具体的対策
1. 経営戦略としての健康経営の再構築
まず必要なのは、健康経営の位置づけを根本的に見直すことです。人事部門の福利厚生施策から経営戦略の一部として位置づけ直す必要があります。
経営層の役割強化: 経営トップや役員が健康経営の意義を十分に理解することが重要です。経営会議での定期的な議論を制度化する必要があります。
マネジメントサイクルの確立: 以下のサイクルを確立することが重要です:
- 年度初めに健康経営戦略を策定
- 四半期ごとに進捗を確認
- 年度末に効果検証を実施
組織体制の整備: 健康経営専任の役員指名や、取締役会での定期報告体制の構築も検討すべきでしょう。
会議体での議題化: 経営レベルでの会議体では、以下を継続的に議題として取り上げる必要があります:
- 健康経営推進方針の決定
- KGI・KPIの設定と進捗管理
- 予算配分の決定
- 効果検証結果の報告
これらの記録を適切に保管する体制が求められます。
2. データドリブンな施策設計と効果測定体制の構築
施策の企画段階から効果測定を意識した設計が必要です。
指標設定の重要性: 各施策について明確なKPI・KGIを設定する必要があります。ベースライン調査から効果測定まで一貫したデータ収集・分析体制を構築します。
統合的なデータ分析: 以下のデータを統合的に分析することが重要です:
- 健康診断データ
- ストレスチェック結果
- 従業員意識調査
- 人事データ(休職率、離職率、パフォーマンス評価など)
健康経営施策の投資対効果を定量的に示せる仕組みが求められます。
分析体制の強化: 外部のデータ分析サービスの活用や、社内分析体制の強化も検討課題となります。
PHRシステムの活用: PHRシステムの導入により、従業員個人の健康データを継続的に収集・分析することが重要です。個別化された健康支援を提供する仕組みの構築も重要な要素となります。
3. ステークホルダーとの連携強化
保険者(健康保険組合等)との連携体制を再構築する必要があります。40歳未満を含む全従業員の健診データ提供体制を整備することが重要です。
専門家との連携深化: 以下の専門家との連携を深める必要があります:
- 産業医
- 保健師
- 外部の健康管理サービス事業者
より専門的で効果的な健康支援体制を構築することが重要です。
エコシステムの構築: グループ会社や取引先への健康経営支援も、今後の重要な評価項目となります。自社のノウハウや取り組み事例を積極的に共有することが必要です。健康経営のエコシステム構築を主導する姿勢が求められます。
トップランナーとしての責務: ホワイト500認定企業には、トップランナーとして健康経営の普及に取り組むことが必須要件となっています。これらの活動の記録と成果の測定が不可欠です。
4. 多様性に配慮した包括的な健康支援制度の設計
従業員の多様なニーズに対応した施策の体系化が必要です。
女性の健康課題への対応: 以下の課題への対応が求められます:
- 更年期症状
- 妊娠・出産
- 月経随伴症状
高齢従業員への支援: 高齢従業員の健康維持・増進支援も重要な要素です。
両立支援の強化: 育児・介護両立支援の充実が必要です。
包括的な戦略設計: これらの施策は単発的な対応ではありません。キャリア形成支援や働き方改革と連動した包括的な人事戦略として設計することが重要です。
管理職の理解促進: 管理職への多様性理解研修や、柔軟な働き方を支援する制度設計も併せて検討すべきでしょう。
プレコンセプションケアの推進: 性別を問わず若年層から将来の健康とライフプランを考える機会を提供することが重要です。その効果を継続的に測定する体制が求められます。
5. 情報開示とコミュニケーション戦略の強化
健康経営の取り組み内容と成果を効果的に社外発信するためのコミュニケーション戦略を策定します。
多チャネルでの情報発信: 以下のチャネルを活用した情報提供が重要です:
- 統合報告書
- サステナビリティレポート
- 自社ウェブサイト
ステークホルダーの関心に応じた情報提供を行う必要があります。
投資家向けの定量的情報提供: 特に投資家向けには、以下の財務的インパクトを定量的に示すことが重要です:
- 従業員エンゲージメント向上
- 生産性向上
- 人材定着率改善
ESG投資の観点からも、健康経営の取り組みは企業価値向上に直結する重要な要素として位置づけられています。
上位認定への対応: ホワイト500や健康経営銘柄を目指す企業は、従業員パフォーマンス指標とその測定方法の開示が義務となります。開示内容の精査と継続的な改善が不可欠です。
6. 継続的な改善サイクルの構築
健康経営戦略マップの活用により、経営理念から具体的施策まで一貫した体系を構築する必要があります。定期的な見直しと改善を行う仕組みを整備することが重要です。
PDCAサイクルの確立: 以下の継続的なサイクルを確立することが重要です:
- 年度計画の策定
- 四半期レビュー
- 年次評価
その過程で得られたデータと知見を次年度の戦略に反映させることが重要です。
文書管理体制の整備: 認定後も2年間の資料保存義務があります。求めに応じて1週間以内の提出が必要となるため、適切な文書管理体制の構築も必須です。
まとめ:持続可能な競争優位の源泉としての健康経営
令和7年度の健康経営優良法人認定制度の変更は、企業にとって大きな挑戦です。しかし一方で、真の健康経営を実現する絶好の機会でもあります。
形式的な制度対応から脱却することが重要です。従業員の健康と企業の持続的成長を両立させる経営戦略として健康経営を位置づけることで、多面的な効果が期待できます:
- 人材確保
- 生産性向上
- 組織風土改革
変更の背景
変更の背景には、企業を取り巻く環境の大きな変化があります:
- 人的資本経営への注目の高まり
- 労働力不足の深刻化
- 働き方の多様化
これらの課題に対応するためには、従業員一人ひとりが心身ともに健康であることが不可欠です。最大限のパフォーマンスを発揮できる組織づくりが求められています。
今後の展望
制度開始から9年が経過し、認定法人数は大幅に増加しています。一方で、求められる水準も大きく向上しています。
今回の制度変更を機に、健康経営を単なる認定取得のための施策から転換することが重要です。企業の持続可能な競争優位の源泉として再定義し、長期的な視点で取り組みを推進することが求められます。
そのためには、以下の総合的な経営力の向上が必要となります:
- 経営層のリーダーシップ
- データに基づく意思決定
- ステークホルダーとの協働
- 従業員の多様性への配慮
これらの要素を統合した健康経営戦略の構築が、今後の企業成長の鍵となるでしょう。
この記事で紹介した情報は、経済産業省の公式発表資料および健康経営推進検討会の議事資料に基づいています。最新の認定要件や申請方法については、ACTION!健康経営ポータルサイトをご確認ください。