地方創生2.0で変わる日本の未来:二地域居住推進で実現する新しいライフスタイル

2025年6月、日本の地域政策は大きな転換点を迎えました。「地方創生2.0基本構想」の閣議決定により、従来の移住促進中心から、人口減少時代でも持続可能な成長を目指す新たなビジョンが示されたのです。
特に注目されるのが、航空会社と自治体が連携した二地域居住支援制度の本格始動です。この記事では、地方創生2.0で変わる日本の未来として、二地域居住推進で実現する新しいライフスタイルについて詳しく解説します。
地方創生2.0基本構想とは何か
地方創生2.0は、単なる地域活性化策を超えて「日本の活力を取り戻す経済政策」として位置づけられています。10年間を見据えたこのビジョンは、「令和の日本列島改造」とも称され、強い経済、豊かな暮らし、新しい・楽しい日本の同時実現を掲げています。
最も重要なのは、人口減少・高齢化という現実を正面から受け止めた政策転換です。従来のような「人口減少に歯止めをかける」発想から、「人口が減っても成長できる構造」への転換が図られています。この考え方の根底には、AI・デジタル技術の徹底活用や、都市と地方の新しい共生関係の構築があります。
地方創生1.0からの決定的な変化
従来の課題と反省点
地方創生1.0では、移住促進や子育て支援が中心でしたが、結果的に地方間での「人口の奪い合い」に陥ってしまいました。東京一極集中の流れを変えるには至らず、若者や女性の地方離れを食い止めることができませんでした。特に問題だったのは、職場の魅力や社会的バイアスへの対策が不十分だったことです。
新しいアプローチの特徴
地方創生2.0では、以下の革新的な視点が導入されています。
「新結合」による価値創出:異分野の要素を掛け合わせて新たな産業・サービスを創出する概念です。例えば、農業×IT、観光×教育といった従来にない組み合わせにより、地方独自の高付加価値産業を生み出します。
好事例の「普遍化」:成功事例を単純にコピーするのではなく、各地域の特性に合わせてローカライズして面的に展開する手法です。これにより、点ではなく面的な地域活性化を実現します。
若者・女性に選ばれる地域づくり:アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の解消や、多様な働き方の実現に重点を置いています。


地方創生2.0の5つの政策柱
1. 安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生
デジタル田園都市国家構想を発展的に継承し、デジタル技術を活用した生活サービスの維持・向上や、地域協同プラットフォームの構築を通じて、人口減少下でも質の高い生活環境を維持します。
2. 稼ぐ力を高める新しい地方経済の創生
「地方イノベーション創生構想」として、スタートアップ企業の誘致や知的財産の活用により、付加価値創出型の経済構造への転換を図ります。目標は、地方の労働生産性を東京圏と同水準にすることです。
3. 人や企業の地方分散
産官学の地方移転促進に加え、都市と地方の交流強化による新しい人の流れを創出します。ここで重要な役割を果たすのが二地域居住制度です。
4. 新時代のインフラ整備とAI・デジタル技術の徹底活用
スマート農林水産業、ドローン・自動運転の実用化、分散データセンターの整備など、地方こそがデジタル技術の実験場となる構想です。
5. 広域リージョン連携
単独の自治体では解決困難な課題に対し、広域連携による効果的なソリューションを提供します。
二地域居住推進の具体的な取り組み
地方創生2.0の重要施策の一つである二地域居住推進では、関係人口1000万人(実人数)、延べ人数1億人という野心的な目標が設定されています。この取り組みは国土交通省の二地域居住先導的プロジェクト実装事業として本格化しています。
ANAの先進的な取り組み
2025年9月、ANAホールディングスは「ANA二地域居住等推進コンソーシアム」を設立しました。鳥取県の3町(智頭町、北栄町、江府町)と高知県の4市町村(須崎市、馬路村、本山町、大川村)を含む全16団体が参画しています。
10月15日に開設された専用ポータルサイト「ANAの二地域居住 BLUE SKY LIFE」では、二地域居住モニタープログラムを提供し、各地域の体験メニューへの参加者に対して航空移動費のサポートを行っています。
JALのマイル活用プログラム
JALは「つながる、二地域暮らし」プログラムを2025年9月~12月に実施しています。北海道上士幌町、和歌山県各地、香川県三豊市、長崎県壱岐市を対象に、片道分を想定したJALマイルを提供し、特典航空券により移動費負担を大幅に軽減しています。
自治体独自の支援制度
江府町(鳥取県)では、公共交通機関利用に対して対象経費の2分の1(上限12万円、年2回まで)の補助を実施しています。申請窓口は江府町役場住民生活課となっています。
馬路村(高知県)では、お試し移住体験として最大20万円の交通費補助に加え、家賃ゼロ・保育料ゼロという手厚い支援を提供しています。
南西諸島での新展開:JAL奄美群島プログラム
2025年9月、JALは鹿児島県奄美群島の9自治体と連携した「JAL2地域居住 in Kyushu 奄美群島」を開始しました。対象空港を東京・大阪・福岡・鹿児島・沖縄(那覇)に拡大し、40名程度の参加者を募集しています。
このプログラムでは、奄美大島、喜界島、徳之島の各自治体が独自の魅力を活かした体験メニューを提供し、JALマイルによる移動費サポートで二地域居住を後押ししています。世界自然遺産に登録された貴重な自然環境での生活体験は、従来の二地域居住とは一線を画す魅力的な選択肢となっています。
参加自治体には奄美市、大和村、瀬戸内町、龍郷町、宇検村、喜界町、天城町、徳之島町、伊仙町が含まれています。
10年後に目指す具体的な目標
地方創生2.0では、以下の数値目標が設定されています:
- 東京圏から地方への若者の流れを倍増
- 地方の労働生産性を東京圏と同水準に
- 農林水産物輸出額+インバウンド食関連消費額を3倍
- 生活満足度や「これからよくなる」と思う人の割合を3倍
- 全市町村にスタートアップ企業等の価値創造企業を配置
これらの目標は、従来の人口維持志向から、質的な成長への転換を明確に示しています。
まとめ:新しい日本の地域像に向けて
地方創生2.0は、人口減少時代における日本の新しい成長モデルを提示する重要な政策転換です。特に二地域居住推進は、移住というハードルの高い選択肢ではなく、都市と地方の新しい関係性を築く現実的なアプローチとして注目されます。
航空会社と自治体の連携による交通費支援制度は、まさに「移動」という物理的な障壁を下げる画期的な取り組みです。2025年度の実証実験の結果次第では、2026年度以降の本格展開により、日本全国で二地域居住が一般的なライフスタイルになる可能性があります。
地方創生2.0が描く未来では、人口減少は課題ではなく、むしろ新しい価値創造の機会として捉えられています。AI・デジタル技術の活用と人的資源の循環により、「小さくても輝く地域」が日本各地に生まれることが期待されます。この変革の波は、私たちの働き方や生き方そのものを変える可能性を秘めているのです。