人的資本開示⑤ ISO30414とデータ活用の潮流
リーマンショック後の人的資本主義の機運の高まりとともに、報告可能な人的資本の規格を開発する動きが活発化し、人的資本報告の国際規格が2018年12月にISO30414として発行されました。
そして、ISO30414を普及促進するために、「Human Capital Impact」というグローバルネットワークを作り、認証ビジネスを展開しています。
日本からも、「HCプロデュース」の保坂 駿介氏が参加しています。
ISO30414の認証には、以下の2種類があります。
1.組織の人的資本報告に対する認証(Organizational Certification)
2.組織の認証のためのコンサルティングやアセスメントをする個人に対する認証(Professional Certification)
2については、以下3つのポイントを押さえることが求められています。
①ISO 301414で提示されている58のメトリックにおいてデータ化されている。データ化できない場合はその理由が説明されている
②データがリアルタイムで揃えられる情報システムが構築されている
③人的資本のデータを経営に活かす手法・手順が明確になっている
その潮流で、日本でも内閣官房が非財務情報可視化研究会において、「人的資本可視化指針」を策定しました。
また金融庁の「ディスクロージャーワーキング・グループ」などで人的資本開示義務化の議論へと繋がっています。
■人的資本経営におけるデータ活用
ISO30414は、以下11の人的資本領域において合計58のメトリックが示されています。
1.ワークフォース可用性
2.ダイバーシティ
3.リーダーシップ
4.後継者計画
5.採用、異動、離職
6.スキル、ケイパビリティ
7.コスト
8.生産性
9.組織文化
10.組織の健康、安全、ウェルビーイング
11.コンプライアンス、倫理
[ISO30414 58のメトリック]
58のメトリックをベースに自社にとって必要と思われるメトリックを定義してデータ化し、データを経営に活用します。
人的資本経営におけるデータ活用の4つのレベルは以下になります。
レベル1:必要なメトリックにおいてデータ化をしてダッシュボード等で表示する
レベル2:重要なメトリックをベースにKPIが設定され、ベンチマークデータを参考にKPIに対して目標が明確に設定されている
レベル3:メトリック間の関係性などが分析され、どのKPIがどのKPIに影響を与え、それぞれのKPIが業績にどう影響するかなどが 明確になっている
レベル4:時系列でデータ間の関係性が明確になっていることで、アルゴリズム等でモデリングができ、将来を予測できる
■人的資本経営における主要KPI例
KGIには、人的資本ROI(Return On Investment:投資収益率)や従業員1人当たり売上高/利益が使われることが多いようです。
KPIとして最もよく使われるのは、ISO30414の組織文化のメトリックである「従業員エンゲージメント」であり、従業員エンゲージメントと業績との相関関係については、エビデンスが世界中で蓄積されはじめています。
新型コロナ禍によってにわかに重要KPIとなったのは「ウェルビーイング」です。
ウェルビーイングは、フィジカルとメンタルの健康に加えて幸福感も含む概念ですが、特に幸福感を高めるために、個々の従業員のキャリア充足度を高めることが重要になっています。
また、最近重要視されはじめたKPIとして、ゴグニティブダイバーシティ(Cognitive diversity:認知的ダイバーシティ)があります。
ダイバーシティは、大きく「デモグラフィック ダイバーシティ」と「コグニティブダイバーシティ」に分けられます。
「デモグラフィックダイバーシティ」は、性別や年齢などの個人の努力で変えられないダイバーシティであり、「コグニティブダイバーシティ」は思考特性、スキル、経験など変えられるダイバーシティのことです。
コグニティブダイバーシティは、企業のイノベーション力に強く関係するという報告もあります。
今後、人的資本経営におけるデータ活用が進むと、経営層にも対等に数字による議論ができるようになるとともに、KPIに対する目標設定も明確になり、投資家にとっても従業員にとっても、納得感のある人的資本経営ができるようになることが期待できます。