マーケティング_目的と全体の体系について
マネジメントにとってのマーケティングは、機能戦略の1つというだけでなく、経営戦略の中核に位置づけられる分野です。
『マーケティングとは何か』という問いに対する回答は多岐に渡ると思われますが、以下のような定義が存在しています。
・日本マーケティング協会(JMA)のよる定義
「企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」
・米国マーケティング協会(AMA)による定義
「マーケティングとは、顧客、クライアント(依頼者)、パートナーおよび社会全体にとって価値のあるものを創造し、伝達し、届け、交換するために行う活動や一連の制度、プロセスのこと」
・コトラーの定義
「マーケティングとは社会活動のプロセスである。その中で、個人やグループは、価値ある製品やサービスを作り出し、提供し、他者と自由に交換することによって必要なものや欲するものを手に入れる」
■マーケティングの機能
マーケティングは、製造や販売、会計など、他の経営機能と比べて極めて広範囲の役割を担っています。また、マーケティングは主に市場や顧客を対象にしていることから、企業の「存在意義」や「経営理念」にも通じています。さらにサービス業のマーケティングなどでは、社員にも目を向けており、その対象範囲は外部と内部のステークホルダー全体に及びます。
①販売とマーケティングのちがい
「マーケティングの目的は、セリングを不要にすることである」とドラッカーは述べています。これは、マーケティングによって十分に理解し、顧客が望む製品やサービスを提供すれば、販売(セリング)をしなくてもよくなる、という主旨です。
一般に、マーケティングは販売という意味でとらえることがありますが、販売とマーケティングには多くの違いがあります。
例えば、販売の主眼が、製品をいかに売り込むか(売上(販売高)志向)であるのに対し、マーケティングの主眼は、顧客の欲求(利益志向)にあります。
上記の欲求には、ニーズとウォンツがあり、以下のような違いがあります。
ニーズ :人間としての基本的な欲求
ウォンツ:より具体的で即物的な欲求(なかったとしても困らないけど、できればあったら嬉しい製品の特徴・属性)
例えば、「仕事が多忙なので、リラックスしたい」がニーズになり、より具体的な欲求として、「居酒屋でビールを飲みたい」や「海外旅行に行きたい」というのがウォンツになります。
②機能としてのマーケティング
経営全体の視点の内、マーケティングは以下の機能で特徴づけられます。
・対外的機能
マーケティングは、経営環境のうちの外部環境、とりわけ市場環境を対象とします。他の多くの経営機能が基本的には企業内部に向けられているのに対して、そのアプローチの対象は企業の外部にあります。マーケティングには、顧客と他の経営職能を統合する機能が求められます。
・資金流入機能
マーケティングの機能を遂行するにあたっては、他の経営職能と同様にコストがかかるので、資金の流出を伴います。その一方で、マーケティングは財務活動を除くと、ほとんど唯一の資金流入に直接かかわる機能です。
・全社的機能
販売 :売り手側のニーズに焦点
マーケティング:買い手側のニーズに焦点
マーケティングは、「企業と顧客」、「企業と市場」の関係を規定するものであり、すべての戦略やマネジメントの起点ということができます。したがって、マーケティングは、部分的な機能ではなく、全社的な機能であり、マネジメントにかかわるすべての機能の中で、中核的な位置づけにあります。
・対内的機能
マーケティングはが全社的機能であるためには、その目的や意図などのメッセージが、他の経営職能の隅々にまで浸透する必要があります。つまり、マーケティングは対内的な機能を同時に持つことになります。
■戦略としてのマーケティング
マーケティングを戦略として捉えた場合、以下のような図表に体系化することができます。
目的:市場(顧客)の維持と創造
顧客の理解:マーケティング・リサーチ
対象:標的市場の選定
計画・実行:製品・価格・チャネル・プロモーション(4P)
マーケティングの目的が市場(顧客)の維持と創造にあるとすれば、企業は顧客が何を欲しているかというニーズや、そもそも顧客がどこに存在しているのかという市場の理解からスタートする必要があります。これがマーケティング・リサーチです。
昨今では、消費者や顧客のニーズを出発点として製品やサービスを考えるニーズ志向(マーケット・イン)から、社会志向といわれる、消費者軽視や環境破壊などの社会的問題に対する要求として成熟してきた考え方が注目されるようになってきています。社会志向はソーシャル・マーケティングともいわれ、病院や学校、教会などの社会的な目的を持つNPOにもマーケティングを導入する考え方です。
■マーケティング情報の収集
①マーケティング・リサーチの機能
企業が顧客の嗜好や動向を含む市場環境を把握するために用いる方法の総称が、マーケティングリサーチです。
マーケティングリサーチは、以下のような機能を有する活動です。
(1)企業と市場を結びつける機能
(2)マーケティングにかかわる問題や機会を識別する機能
(3)マーケティング活動を改善するための手助けとなる機能
②マーケティング情報
マーケティング・リサーチを通じて得られる情報は、大きく1次データと2次データに分けることができます。
1次データとは、特定の目的を持って新たに収集される情報のことで、消費者へのアンケートなどから得られます。1次情報は、ある特定の目的に適合した制度の高い情報ですが、調査に時間やコストがかかるデメリットもあります。
2次データとは、他の目的のためにすでに収集・加工されている情報のことです。社内にある顧客情報の蓄積や外部機関が作成した調査報告書などから得ることができます。2次データは、その収集が比較的容易ですが、その一方で、調査目的に合致した情報が得にくいことや、官公庁の調査(国勢調査など)のように調査してから公表されるまでに時間がかかることもあります。2次データは社内的な内部データと外部データに分けることができます。
マーケティング・リサーチにおけるデータ収集には、以下のような方法があります。
(1)質問法
・面接法、電話法、郵送法、留置き法、インターネット調査法
(2)観察法
(3)実験法
■消費者の購買行動
①イノベーションの普及過程
消費者行動に影響を与えるのは、社会的・文化的要因や消費者自身の特性だけではなく、新しい製品やコンセプトが出現してから消費者に普及する過程の中で、他の消費者が個人の購買行動に与える影響があるとされています。ロジャーズは、イノベーションの普及過程として以下のようにモデル化しています。
②キャズム理論
後にムーアは、ロジャーズの理論をハイテク技術の企業におけるマーケティングに置き換え、キャムズ理論を唱えています。
ムーアは、イノベーションの普及過程における消費者の5つの集団の中で、新たな技術を受容する態度という点で、初期採用者と前期大衆の間には大きな溝(キャズム)があり、これをうまく橋渡ししなければ、新しいテクノロジーが広く消費者に広がることはないとしました。
例えば、初期採用者は、新技術の導入を組織改革や競争優位性構築のための戦略的な手段と期待しますが、 初期多数派は、業務改善などの戦術的手段として新技術を導入する傾向にあるため、初期採用者と前期大衆の間にはマーケテイングや営業上の方法論の乖離が大きいとしています。
■消費者の購買決定プロセス
消費者が製品やサービスに関心を抱いてから購買を決定するまでの一連のプロセスを以下の5つに表すことができます。
(1)問題認知
消費者は、ふだんの生活の中で不満や不自由を感じた時に、問題を認知する。
あるべき姿と現状とのギャップを埋めようとする。
(2)情報探索
過去の経験、インターネット検索、雑誌、口コミ
(3)評価行動
消費者は、情報収集の途中に、具体的な製品やサービスに対する評価を行う
(4)購買の意思決定
製品やサービスの自己評価、準拠集団、他人の態度、自身の可処分所得、金銭の余裕
など、様々な要因の影響を受ける
(5)購買後の評価
期待以上であれば、消費者は満足し、口コミやSNSで情報を拡散したり
自らも反復購買する。また、経験学習として個人に蓄積され、次回購入の
評価基準になる
認知的不協和:「ほんとうにコレを購入してよかったのか」という自己矛盾の気持ち
L疑うと同時に正しかったと信じたい
L購入後の製品評価を閲覧、製品カタログを眺める
■消費者の購買行動のタイプ
製品やサービスを購買するという行動について、これを消費者による問題解決のパターンとして捉えると、以下の3タイプに分けることができます。
(1)拡大的問題解決
・消費者の中に評価基準が形成されていないときの行動パターン
・「高価格製品」や「購買頻度が低い製品・サービス」
・専門品の購入に多い
・情報探索や評価行動の段階に多くの時間をかけ、消費者は慎重な意思決定を行う
(2)限定的問題解決
・よく知っている製品やサービスに新製品が出た場合や
・現在使用している製品・サービスから十分な満足が得られない場合の行動パターン
・買回品の購入に多く見られる
・カテゴリー内での情報探索に注力
・企業は、広告やパブで情報提供、人的販売活動で便益や他社製品との違いを理解促進
(3)日常的問題解決
・消費者がそのカテゴリーの製品・サービスをよく知っており、明確な購買判断基準あり
・最寄品の購入に多い
・消費者は、情報探索や評価行動に時間をかけず、特定ブランドを指名買いする
・広告やプロモーションで、消費者のブランド・スイッチを起こすことも可能