マーケティング_STPモデルについて
前回は、マーケティング全体の体系及び市場と企業との関わりについて記載しました。
今回は、『STPモデル』と『マーケティング・ミックス』について記載していきたいと思います。
どれだけ豊富な経営資源を有する企業でも、ターゲットとなる市場を選定して戦略や経営資源をフォーカスしなくてはなりません。
標的市場を選定する実務的なプロセスとして、セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングというSTPモデルが広く知られています。
選定した市場に対しては、マーケティング・ミックスによるアプローチが行われますが、製造業、流通業、サービス業という業種特性に応じてマーケティング・ミックスの要素は異なります。
『STPモデル』は以下3つの要素です。
・セグメンテーション:全体の市場を細分化
・ターゲティング:細分化した市場から標的とするセグメントを選び出す
・ポジショニング:セグメント市場における自社製品の位置づけを明確にする
■セグメンテーション
以下のような基準をもって、同じニーズや嗜好を持つグループ単位に市場を細分化することです。なお、企業はこれらの基準(変数)のうち、1つを用いて市場細分化を行うこともあれば、複数の基準を組み合わせることもあります。
1.市場細分化の基準
B to C:居住地域、年齢層、職業、消費者ライフスタイル、ベネフィット
B to B:顧客層の産業、企業規模、顧客企業の購買方針、これまでの関係性
2.消費者市場における市場細分化基準
4つの変数
①地理的変数
②人口統計的変数
③心理的変数
④行動変数
消費者市場のための主要なセグメンテーション変数とその例
3.世代というセグメンテーション基準
①ベビーブーム時代(1946-1964)
②X世代(1965-1980)
③Y世代(1981-1996)
④Z世代(1997-2009) デジタルネイティブ
⑤α世代(2010-2025)
4.ビジネス市場における市場細分化基準
ビジネス市場のセグメンテーション基準は、消費者市場の市場細分化基準と大きく変わることはありませんが、以下のような特徴的な変数があります。
・企業規模
・対象顧客
・産業規模
・地理的集中度
・購買に至る方法・手順
5.セグメントの評価基準
セグメンテーションを行う際は、一定の基準を適用するだけでなく、その程度の大きさで市場細分化するかという評価基準が必要になります。セグメントは、小さければ小さいほど、セグメント内の嗜好やニーズの 同質性は保たれますが、一方で、そのセグメントから十分な収益を上げられるのか、という「経済性の問題」が生じます。
①測定可能性
②維持可能性:マーケティング・ミックスを適用できるだけの同質性が必要
③到達可能性
④実行可能性
■ターゲティング
ターゲティングとは、STPモデルにおける市場セグメントの中から、標的とするセグメントを選び出すことです。ターゲティングにおいては、「ターゲットとする市場セグメントの選定基準」、「ターゲットの抽出方法」が課題とされます。
ターゲット市場の選定基準
市場セグメントの評価
一般に、市場セグメントの評価は、①のそのセグメントの経済的な魅力と、②自社の目的と資源という2つの要因によって行われます。
・市場セグメントの魅力度
市場規模
市場成長率
収益性
規模の経済リスク
優先度や加重を検討しながら評価基準を選び出す
・企業の目的と資源による評価
自社の目的
経営資源
そのセグメントにはどのような競合がいるのか、どんな企業が参入してきそうか、といった情報収集も必要
市場セグメントの選定
セグメントの評価基準が固まったならば、企業はどのセグメントにどれくらいの経営資源を投入するかを決定します。ここでは、標的とするセグメントを決定するための2つのアプローチをご紹介します。
①3類型市場選定アプローチ
市場の変化が急激で、比較的短い期間で戦略を構築しなければならない場合や、精緻なセグメンテーションが不可能である場合に有効な方法です。
・市場統合型
L無差別型戦略
Lコスト最小限/規模の経済発揮
L顧客層のニーズが多様化している市場では、支持を得られない
・単一セグメント型
Lセグメンテーションの段階で細分化された複数市場から1つのセグメントを選び出し、経営資源を投入すること
L特定市場セグメントに優越的地位を築ける
Lニッチ市場として、独占的な地位を享受できる
→経営資源の限られた、あまり規模の大きくない企業にとって有効
Lセグメント市場が縮小した時の影響大
L次の成長戦略を描きにくい
・複数セグメント型
L細分化されたセグメントのうち、いくつかのセグメントを標的にする考え方
L1つの市場だけに集中するリスクを回避
L1つのセグメントで失敗しても、経験学習で別セグメントに活かせる
Lコスト高い
→範囲の経済と規模の経済のバランスをとる必要がある
②5類型市場選定アプローチ
上述した3類型市場選定アプローチよりも、多くのパターンから市場選定する方法です。このアプローチでは、「製品」 と「市場」という2つの軸で市場を切り分けます。
・単一セグメント集中型
・3類の単一セグメントに似ている
・製品専門化
・複数のセグメントに対して「共通の製品」を提供する
・市場専門化
・1つの市場に対して多数の製品を提供する
・選択的専門型
・魅力的であると判断した複数のセグメントを対象
・全市場浸透(カバー)型
■既存顧客データにもとづくターゲティング
ここまで、STPモデルにもとづいて、ターゲティングの説明をしてきました。こうした方法以外にも、企業がすでに保有している購入履歴などのデータをもとにして、既存顧客のターゲットに優先順位を決め、効率的にマーケティング活動を進める方法もあります。
①ABC分析にもとづく顧客ランクづけ
経済学における「パレートの法則」を援用した、売上80%は全顧客の20%が生み出しているという経験則に基づいた顧客を選別する方法です。この経験則に従えば、上位20%ほどの顧客に対して特別なサービスや頻繁なプロモーション活動を行う方が、それ以外の顧客に対してマーケティング・アプローチを行うよりも、効率的・効果的とされています。
なお、ABC分析と逆の考え方で、上位20%以外の顧客に対してアプローチしたりしていくことを『ロングテール』と呼びます。
②RFM分析
伝統的に通信販売業で行われてきた顧客選別の手法に、RFM分析があります。RFMとは、直近の購入日(recency)、購入頻度(frequency)、累積購入金額(monnetary)という3つの既存データのことです。RFM分析は、これらのデータを組み合わせて、顧客を選び出す基準を設定し、主に販売促進などのプロモーション活動に活かす手法です。
RFM分析は、直近の購入日が現時点より近く、購入頻度がより多く、累積購入金額がより大きいほど、顧客からのレスポンスが良いという仮説に基づいています。3つの要素の中で、どの要素にどれだけ比重を置くかは、企業によって異なります。
■デジタル時代のターゲティング
①ペルソナとは
EC拡大やインターネット・SNSの普及・浸透によって、企業は個々の顧客について量的にも質的にも多くの情報を入手できるようになりました。そこで、セグメンテーションの段階をスキップして、直接的にターゲットとなる個人の詳細なプロフィールをモデルとして描き出すアプローチがとられるようになっています。この仮想の人物モデルのことを、ペルソナと言います。
②ペルソナの設定
ペルソナを設定するには、まず対象となる顧客層の特性を絞り込んでいきます。その際に、年齢や居住地、勤務地などを物理的属性だけでなく、嗜好やライフスタイルなどの心理的変数や情報入手ツールなどの行動変数も重要となります。つまり、ペルソナの特徴づくりにあたって、基準となる属性の要素は消費者市場におけるセグメンテーション基準と同じです。
ペルソナ設定には、アンケートやインタビューなどを通じて収集した1次データや、顧客の購買履歴などの2次データを合わせて活用します。
そして、最終的にはペルソナのプロフィールをなるべく具体化し、名前や居住地はもちろんのこと、家族の職業やペットの種類・名前、趣味、よく読む雑誌、友だちのプロフィールといった詳細なことまで設定を行い、本当に存在する個人のような人物モデルを作り出します。
③マーケティング・アプローチの活用
企業は、描き出したペルソナをターゲットとして、製品開発や機能追加、付帯サービスの開発に活かすことができます。また、仮想モデルであるペルソナの購買行動で特に、どんな雑誌を読み、どんな街に出かけ、どのような業態の店で買い物をし、どのような生活サイクルであるかなど、マーケティング上の企業との接点について熟考しながら、販売チャネルやコミュニケーション手段、プロモーション手段などを検討していきます。
■ポジショニング
ターゲティングを行い、対象とする市場が決定したならば、マーケティング戦略の策定に必要な次のステップとして、顧客の知覚内における製品やサービスの位置づけを明確に打ち出す必要があります。このステップを『ポジショニング』と言います。
コトラーらは、「競合製品と比較して、当該製品が相対的にどのような位置にあるかとともに、顧客のマインド内でどのような位置を占めるかを明確にすることである」としています。
また、マーケティングは市場や顧客のニーズへの適合を重視するあまり、競合戦略的な視点が欠けていると指摘されることがありますが、ポジショニングを行うことによって、他社製品やサービスに対する顧客の知覚価値や、競合他社の戦略について意識づけを行うことができます。
[ポジショングを行うステップ]
①標的市場の属性選好を明らかにする
②現行のポジショニングを分析する
③現在のポジションと市場が選好する製品属性を分析する
④ポジショニングを決定する