コーチング①_定義と特徴
コーチングとは
コーチングの定義も諸説あると思いますが、コーチ・エイの著書(「コーチングの基本」日本実業出版社)では以下のように定義されています。
「コーチングとは、対話を重ねることを通して、クライアントが目標達成に必要なスキルや知識、考え方を備え、行動することを支援するプロセスである」
コーチは、クライアントが向かいたい方向、達成したい目標を明確にする必要があり、クライアントの目標達成に必要な知識やスキル、ものの見方や考え方を棚卸していきます。また、知識やスキル、ものの見方や考え方をクライアント自身が継続的にバージョンアップし続け、その結果として目標を達成していく全プロセスを支援していきます。
上述した役割に従って、コーチが現在進行形で行う「対話」や「関わり」を総称してコーチングと呼びます。
なお、目標を設定し、その達成のプロセスを設計し、必要な行動をプログラム化する過程で主導権を握るのは、クライアント自身です。
コーチの大きな役割の1つは、クライアントが自らの力で目標を達成するのを支援することです。コーチは、クライアント自身が自ら考え課題を解決していくため、適切な質問を与える専門家なのです。
コーチングの機能と特徴
コーチングは「知識」と「行動」の間の溝を埋めることが必要です。
「後進が育たない」「ビジョンが浸透しない」「職場に一体感が感じられない」といった悩みは、リーダーやマネージャーによくあるテーマです。コーチングの特徴は、相手に積極的に問いかけながらも、相手が自発的に考え、最後は自分で解決していくことを促していく点にあります。
人の満足や不満というのは、期待と現実の間に存在しますので、その人には実は期待があるということです。
コーチングにおける「目標」と「目的」
目標が定まると、そこに向けてエネルギーを集中させることができますが、同時に、目標が明確に定まることで
現状との差異を明確に認識できるようになります。
人はこの目標と現状の差異を放っておくことが苦手です。そのため、目標に向けて自身の現状を変えていこうとするエネルギーが生まれ、これが成長への原動力となるのです。
コーチは、このように目標と現状の差異を対話を通じて明確にしていきながら、クライアントの成長エンジンを起動させるのです。
コーチングの対話は、クライアントの内側に眠っている潜在的な目的意識を顕在化させていくプロセスでもあります。
こうした目的意識が詳細に言語化されたとき、それがビジョンになっていきます。
そして、ビジョンに至る具体的なマイルストーンが見えてくると、それが目標となりエネルギーを集中させる焦点となります。
同時に、目標が明確化する中で、現在の立ち位置との差が明確になり、その差の中に「乗り越えるべき成長テーマ」が見つかるのです。
このようにして、コーチはクライアントから目的意識を引き出し、最終的にはクライアントが自ら成長テーマに直面する支援をします。そして、成長テーマを開発するプロセスに継続的に伴走する役割を担うのです。
マネジメントとコーチング
管理職の実務においてコーチングは役に立ちます。部下の成長や目標達成を通じて、組織全体の成果を出すことを責務とする管理職にとって成果志向であり、目標達成を目指すコーチングの考え方や技術を知ることで得るものは多いと考えます。
また、業務について一番よく知っているのは部下であるケースはよくありますが、部下に蓄積された知識を、部下自身が成果に向けて活用できるように手助けできれば管理職としても助かることは多いものです。
コーチングの使い方を学ぶことで、管理職としての行動の選択肢を確実に増やすことができ、また、マネジメントの柔軟性を高めることができると思います。
コーチングが機能する条件
コーチングを機能させるための判断基準は、対象となる相手の
①精神状態
②成長段階
③課題領域
をチェックすることが必要です。
①精神状態を気にかける
コーチングの対象となる人に、緊張と弛緩のある対話に参加できるだけのエネルギーレベル、精神的な安定があることを最初に確認しておく必要があります。
②成長段階を見極める
「意欲の高低」、「知識や業務適応能力」によって区分したマトリクスをもとに考えてみましょう。
・意欲高い、知識(業務適応能力)低い
業務に不慣れな段階では、コーチングで多用する「問い」や「傾聴」を駆使しても業務が前に進まず、逆に不適切な結果になることも珍しくありません。むしろ一般的には、上司が結果に向けて部下に知るべきことを「教え」、進むべき方向と何をすべきかを明確に「示し」、相手を「リード」していく方が効果的ではないでしょうか。
すなわち、意欲が高くても知識や業務適応能力が低い場合には、コーチングは機能しにくいのです。
・知識(業務適応能力)は徐々に向上しているが、意欲が低下している場合
この段階にいる方の多くは、業務知識や適応能力がだんだんと身についてきているにも関わらず、そのことに自分自身で気づいていません。
また、多くの場合、走り続けている過程で、だんだんと意欲が停滞あるいは低下していることも珍しくありません。そして、こうした状況に直面している方にこそ、コーチのような存在が必要になるのです。部下をよく観察している管理職もこうしたタイミングを逃しません。そして、これまでの「指示する」「リードする」「教える」コミュニケーションを「認める」「理解する」「考えさせる」やり方に徐々にシフトさせていくのです。
※コーチングは、トラブル対応などの緊急時には不向きです。解決しようとしている課題領域が、重要ではあるが緊急性の差し迫っていないものである場合に、コーチングのアプローチが機能するといえます。
・成長し、意欲・知識が高まってきた状態
成長に向けたコーチングが功を奏すと、徐々に自分の進歩を実感し、自信を取り戻してきます。
しかし、実際部下側には依然として「自らの判断に確信がもてない不安」が残っていることが多いです。
もちろん、この段階まで来ると、過度な介入は本人の自尊心を傷つけるリスクがありますので、要注意です。
業務のイニシアチブを与えつつも、目を離さずよく「観ておく」こと、助けが求められた場合には積極的に支援する動きをとることが必要となるでしょう。
その後、順調に経験を重ね、成功と失敗から学び、その分野について、自己完結的に業務推進できるようになると、いよいよ「役割」や「責任」を大きく与えて、任せることができるようになります。
その後は、より大きな期待と責任を果たすことを通じて、さらなる飛躍を遂げるステージに入ることができます。
このように、コーチングが効果的な方法となるためには、『コーチングが機能するタイミングを見出す』という別の力が要求されるのです。その意味では、コーチングを活用するうえで第一に要求されるのは、『相手に対する深い関心』と『繊細な洞察力』といえるのではないでしょうか。