エンゲージメントサーベイによる組織開発とBIツール
エンゲージメントサーベイを導入する企業が徐々に増加しています。
少し古いデータになりますが、「日本の人事部」が2021年に実施した調査によると、従業員に対するパルスサーベイを実施している企業は18.9%に留まっているものの、従業員エンゲージメント向上の必要性が重要視されてきています。
従業員規模別に見ると、規模が大きくなるほど「行っている」割合が高く、1001~5000人の企業では27.8%、5001人以上の企業では36.8%となっています。
パルスサーベイを実施する目的としては、「従業員エンゲージメントの調査」が約8割となっており、エンゲージメントを課題として捉える企業が多いことが分かります。
そもそも、従業員エンゲージメントが注目されている背景としては、以下のような理由が挙げられます。
- コロナ禍の影響: コロナ禍により、リモートワークやハイブリッドワークが一般的になり、従業員と組織の関係性が変化しました。企業は従業員のエンゲージメントを維持するために新たなアプローチを模索しています。
- 人材市場の競争激化: 人材の流動性が高まっており、優秀な従業員を確保・定着させるためにエンゲージメント向上が重要となっています。企業は従業員のニーズに合わせた働き方や福利厚生を提供し、競争力を高めています。
- 多様性とインクルージョンの重要性: 多様性とインクルージョンが企業文化において注目されています。エンゲージメント向上には、全ての従業員が尊重され、自分らしさを発揮できる環境を整備することが必要です。
- 持続可能性と社会的責任: 環境への配慮や社会的貢献が企業の価値観に組み込まれています。従業員は、企業の社会的責任に共感し、エンゲージメントが高まることがあります。
他にも、2023年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書より、人的資本の開示項目が義務化され、上場企業が人的資本開示を契機に従業員のモチベーション可視化などに取組み始めたことなども背景にあります。
そのような背景もあり、当方の所属会社においてもエンゲージメントのパルスサーベイを実施しています。
実施から2年ほど経ち、導入初期における社員へも徐々に浸透してきており、人事側も以下のような課題解決スキームをつくって対応しています。
①サーベイとは別にExcelで組織ごとの詳細分析ができるツールを全社員に展開
②サーベイスコアの大幅な低下など、アラートが出ている社員への対応
③問題・課題についての入力コメントを集約し、改善に向けた社内調整・改善アクションの実施
加えて、次ステップとして課題となっているのが、組織(部や課単位)への課題解決です。
恒常的にエンゲージメントスコアが低い組織や、急激にエンゲージメントスコアが急落した組織に対する、原因の調査及び改善策の検討をする必要が出てきています。
上記の「どの組織に課題があると見なすのか」や「課題と見なした組織の課題真因はどこにあるのか」という点は、関係者での議論を継続的に実施することで、ある種の「ツボ」みたいなところが見えてきた気がします。
ただし、上記の議論で導かれてきた「課題の真因」をデータでどのように可視化するか、という点が大きな課題でした。とりわけ、社員数の多い企業の場合は、社員全員の顔や動向を把握することが難しいと思いますので、様々なデータで類推していくというアプローチが現実的かもしれません。
最近では、「tableau」や「Power BI」などのBIツールの利用ハードルが下がってきていますので、ある程度リテラシーの高い社員がいたり、社内外のシステム部門に協力・委託することで課題分析がしやすい環境になってきています。
その際、大変重要なのは「何の重要課題をデータで読み解きたいのか」「どのデータを組み合わせるのが有効か」などのポイントを、人事関係者や現場のライン長等との議論の中で紡ぎ出されてくるような風土醸成をすることだと考えます。
組織の問題・課題は企業共通のものもあると思いますが、それより自社のことがよく分かっていて、社員やメンバーに精通している社員の方が、真因をつきやすいという感覚があります。
今後、エンゲージメントサーベイを活用しながら組織開発まで領域を拡大していく場合は、以下を意識していくことが大切だと思います。
①エンゲージメント(パルス)サーベイの結果について、正しく理解した上で関係者と議論ができ、仮説を立てたり、課題の真因を導けるようになること。
②その上で、BIツール等を活用して、仮説や課題の真因をより示唆・立証できるようなデータを可視化できるになること