中小企業の事業承継支援完全ガイド|沖縄県の現状と最新補助金・税制優遇を解説

 日本の中小企業・小規模事業者は、地域経済を支え、雇用を創出する重要な存在です。しかし近年、経営者の高齢化が進む一方で、後継者不在という深刻な課題に直面しています。特に沖縄県においては、この問題がより顕著になっており、地域経済の持続的な発展のためにも事業承継支援の充実が求められています。本記事では、中小企業診断士の視点から、事業承継を取り巻く環境や沖縄県の現状、そして経営者の皆様が活用できる最新の支援制度について詳しく解説してまいります。

事業承継を取り巻く環境について

中小企業、小規模事業者が置かれる状況

 わが国の中小企業・小規模事業者を取り巻く環境は、かつてないほど厳しい局面を迎えています。帝国データバンクの全国「社長年齢」分析調査(2024年)によれば、全国の経営者の平均年齢は2024年時点で60.7歳に達しており、34年連続で過去最高を更新しています。中小企業庁の2025年版中小企業白書でも、中小企業・小規模事業者においても高齢化はますます進んでいることが指摘されています。

さらに深刻なのは、帝国データバンクの全国「後継者不在率」動向調査(2024年)において、2024年の後継者不在率が52.1%と、依然として半数以上の企業が後継者不足に悩んでいる実態が浮き彫りになっている点です。この数値は調査開始以降で最低値ではありますが、改善ペースは鈍化傾向にあり、予断を許さない状況が続いています。

【図表1:後継者不在率の推移(全国vs沖縄県)】

年度全国沖縄県
2019年65.2%82.9%
2021年61.5%73.3%
2023年53.9%66.4%
2024年52.1%65.3%
出典:帝国データバンク各年度調査

 中小企業庁の試算によれば、2025年までに70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人に達すると予測されています。そのうち約半数の127万人が後継者未定とされており、この状況が放置されれば、中小企業・小規模事業者の廃業が急増し、2025年までの累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があると警鐘を鳴らしています。これは「2025年問題」として広く認識され、国を挙げて対策が求められている喫緊の課題となっています。

事業承継支援の契機

 このような危機的状況を受けて、政府は事業承継支援を強化してきました。事業承継には平均で5年から10年という長い期間を要することから、早期からの計画的な取り組みが不可欠です。しかし、経済産業省の調査によれば、70歳以上の経営者でも後継者が未定または了承を得ていないケースが3割を超えており、事業承継の準備が進んでいないのが現状です。

こうした背景から、国は事業承継税制の特例措置、事業承継・引継ぎ補助金の拡充、事業承継・引継ぎ支援センターの設置など、多角的な支援策を講じています。また、2020年には「中小M&Aガイドライン」を策定し、第三者への事業引継ぎ(M&A)を円滑に進めるための環境整備にも取り組んでいます。

沖縄県の事業承継の現状

後継者不在率について

 沖縄県の事業承継の状況は、全国と比較しても極めて深刻です。帝国データバンクの九州・沖縄地区「後継者不在率」動向調査(2024年)によれば、2024年における沖縄県の後継者不在率は65.3%と、前年比1.1ポイント改善したものの、全国平均の52.1%を13.2ポイントも上回り、九州・沖縄地区で最も高い数値を記録しています。

この数値は都道府県別でも全国ワースト5位に位置しており、沖縄県における後継者不足の問題が特に深刻であることを示しています。沖縄県の後継者不在率は依然として高く、全国と比較すると10ポイント以上高い状況が続いています。

年代別に見ると、80代では後継者不在のうち4.4%が「計画中止・取りやめ」としており、全世代平均の2倍まで膨らんでいます。これは、高齢の経営者においても事業承継が進まず、最終的に廃業を選択せざるを得ない状況が生じていることを示唆しています。

老舗店舗の相次ぐ閉店

 沖縄県では、地域に長年親しまれてきた老舗店舗の閉店が相次いでいます。2025年には、南城市佐敷新開で42年間営業してきた「みなもとや」が事業承継のため閉店し、最終日には200人もの客が訪れて惜しまれました。また、那覇市の沖縄おでんが人気の老舗「おふくろ」も後継者不在により閉店の危機に直面しましたが、「やっぱりステーキ」を運営する県内企業が事業を引き継ぎ、秘伝のだしと自慢の味が後世に受け継がれることになりました。

さらに、創業約100年の歴史を持つ那覇市・牧志公設市場の老舗かまぼこ店「ジランバ屋」も、後継者不在により事業継続が困難となっていましたが、ポークたまご株式会社が事業承継を行い、地元で愛される味と看板が守られることになりました。このように、第三者承継(M&A)によって老舗の味や技術、雇用が守られる事例も増えてきています。

しかし一方で、後継者を見つけられずに閉店せざるを得ない店舗も少なくありません。これらの老舗店舗は、地域の食文化や歴史を体現する存在であり、その閉店は地域コミュニティにとって大きな損失となっています。

沖縄県内の休廃業・解散件数

 東京商工リサーチ沖縄支店の調査によれば、2024年の沖縄県内企業の休廃業・解散件数は、過去最多の448件に達しました。これは前年比19件(4.4%)増加であり、3年連続の増加となっています。沖縄振興開発金融公庫のデータでも、2024年の沖縄県内の休廃業・解散件数は、人手・後継者不足を背景として過去最高の448件と報告されており、全国も同様に過去最多を更新しています。

【図表2:沖縄県の休廃業・解散件数の推移】

年度件数
2020年378件
2021年396件
2022年378件
2023年429件
2024年448件(過去最多)
出典:東京商工リサーチ沖縄支店、沖縄振興開発金融公庫

 業種別に見ると、サービス業が全体の約4割を占めており、飲食業や小売業など地域に密着した業種での廃業が目立っています。物価高騰や人件費の上昇、そして何よりも後継者不在という構造的な問題が、これらの廃業増加の主な要因となっています。

沖縄県の廃業率は3.8%となっており、全国平均より0.5%高い水準です。企業の休廃業・解散は、雇用の喪失だけでなく、地域経済の活力低下、税収の減少、そして長年培われてきた技術やノウハウの消失にもつながるため、沖縄県全体の経済的損失は計り知れません。

沖縄県の魅力を向上するには

 沖縄県は、豊かな自然環境、独自の文化、そして観光産業を中心とした特色ある経済構造を持つ地域です。この魅力を維持・向上させていくためには、地域に根差した中小企業・小規模事業者の持続的な発展が不可欠です。

事業承継を円滑に進めることは、単に企業の存続だけでなく、地域の雇用を守り、伝統的な技術や文化を次世代に継承し、地域コミュニティの活力を維持することにつながります。特に沖縄の食文化、工芸品、観光サービスなど、地域固有の魅力を支える事業者が事業承継に成功することで、沖縄県全体のブランド価値向上にも寄与します。

また、第三者承継(M&A)を通じて、県外や海外から新たな経営資源や知見を取り入れることで、既存事業の革新や新たな価値創造につながる可能性もあります。事業承継を単なる世代交代ではなく、事業を成長させるチャンスと捉えることが重要です。

中小M&Aガイドラインの改訂

中小M&Aガイドライン 第3版のポイント

 中小企業におけるM&A市場の拡大に伴い、M&A専門業者(仲介者やフィナンシャル・アドバイザー)が顕著に増加する中で、契約内容や手数料の分かりにくさ、支援内容への不満などの課題が顕在化してきました。こうした状況を受けて、中小企業庁は2024年8月30日に「中小M&Aガイドライン(第3版)」を公表しました。

第3版の主な改訂ポイントは以下の7点です。

(1)仲介者・FAの手数料・提供業務に関する事項

中小企業向けには、手数料と業務内容・質等の確認の重要性、手数料の交渉の検討等について追記されました。仲介者・FA向けには、手数料の詳細説明、プロセスごとの提供業務の具体的説明、担当者の保有資格や経験年数・成約実績の説明等が求められています。M&Aにおける手数料は、レーマン方式(成約価額に対する料率制)が一般的ですが、「基準となる価額」の考え方によって報酬額が大きく変動するため、事前の確認が極めて重要です。

(2)広告・営業の禁止事項の明記

仲介者・FA向けに、広告・営業先が希望しない場合の広告・営業の停止等が求められています。過剰な営業活動によって経営者が不安を煽られたり、不適切な判断を迫られたりする事態を防ぐための規律です。

(3)利益相反に係る禁止事項の具体化

仲介者向けに、追加手数料を支払う者やリピーターへの優遇(当事者のニーズに反したマッチングの優先実施、譲渡額の誘導等)を禁止し、情報の扱いに係る禁止事項が明確化されました。これらの禁止事項について、仲介契約書に仲介者の義務として定める旨が明記されています。

(4)ネームクリア・テール条項に関する規律

仲介者・FA向けに、譲り渡し側の名称について、譲り受け側への開示(ネームクリア)前の譲り渡し側の同意の取得が求められています。また、テール条項(専任契約終了後一定期間内に成約した場合の手数料支払い条項)の対象の限定範囲・専任条項がない場合の扱いについて明確化されました。

(5)最終契約後の当事者間のリスク事項について

中小企業向けに、最終契約・クロージング後に当事者間でのトラブルとなりうるリスク事項が解説されています。仲介者・FA向けには、当事者間でのリスク事項について、依頼者に対する具体的説明が求められています。

(6)譲り渡し側の経営者保証の扱いについて

これは今回の改訂で特に重視された項目です。M&Aを通じた経営者保証の解除又は譲り受け側への移行を確実に実施するための対応として、士業等専門家・事業承継・引継ぎ支援センターや経営者保証の提供先の金融機関等へのM&A成立前の相談や最終契約における位置づけの検討等の対応が明記されました。経営者保証が適切に処理されないと、譲り渡し側の経営者が引退後も保証責任を負い続けるという深刻な問題が発生します。

(7)不適切な事業者の排除について

仲介者・FA、M&Aプラットフォーマー向けに、譲り受け側に対する調査の実施、調査の概要・結果の依頼者への報告が求められています。また、不適切な行為に係る情報を取得した際の慎重な対応の検討が求められています。さらに、中小企業庁の公式ページによれば、業界内での不適切な譲り受け側に係る情報を共有する仕組みの構築が期待される旨が追記され、2025年2月にはこの情報共有の仕組みが実際に構築されることが示唆されています。

これらの改訂により、中小M&A市場における健全な環境整備と支援機関における支援の質の向上が図られることが期待されています。経営者の皆様がM&Aを検討される際には、支援機関が中小M&Aガイドラインを遵守しているかを確認することが重要です。

国及び沖縄県の補助金・税制優遇等について

事業承継・引継ぎ補助金の主な変更点

 事業承継やM&Aを促進するための重要な支援策として、「事業承継・引継ぎ補助金」があります。この補助金は2025年度から「事業承継・M&A補助金」と名称が変更され、支援内容も大幅に拡充されました。

2025年度の主な変更点としては、従来の「経営革新枠」が「事業承継促進枠」として再整理され、さらにM&A後の経営統合を支援する「PMI推進枠」が新設されたことが挙げられます。PMI(Post Merger Integration)とは、M&A成立後の経営統合プロセスのことで、この段階での支援が手厚くなったことは、M&Aの成功率向上に大きく寄与すると期待されています。

また、専門家活用枠の上限額が拡充され、条件を満たせば最大2,000万円まで申請可能となるケースも加わっています。これにより、より大規模なM&Aや複雑な事業承継にも対応できるようになりました。

事業承継・M&A補助金の各枠について

事業承継・M&A補助金の公式サイトによれば、2025年度の補助金は主に以下の枠で構成されています。

【図表3:事業承継・M&A補助金の各枠比較表(2025年度)】

枠名補助上限額補助率主な対象経費
事業承継促進枠最大800万円2/3設備投資、販路開拓、人材育成等
専門家活用枠最大600万円
(条件付2,000万円)
2/3M&A専門家費用、デューデリジェンス費用等
PMI推進枠2/3M&A後の経営統合費用
廃業・再チャレンジ枠最大150万円2/3廃業費用
出典:事業承継・M&A補助金公式サイト

事業承継促進枠(旧:経営革新枠)

事業承継やM&Aを契機として新しい取り組みを行う中小企業等を支援する枠です。補助上限額は一定の条件を満たせば最大800万円、補助率は中小企業で2/3以内となっています。設備投資、販路開拓、人材育成など、事業承継後の経営革新に必要な経費が補助対象となります。

専門家活用枠

M&Aに係る専門家(仲介者、FA、デューデリジェンス実施者等)の活用費用を支援する枠です。2025年度からは補助上限額が大幅に拡充され、基本的には最大600万円ですが、一定の条件を満たせば最大2,000万円まで申請可能となっています。補助率は中小企業で2/3以内です。

PMI推進枠(新設)

M&A後の経営統合を支援する新しい枠です。M&A成立後の組織統合、業務統合、システム統合などに必要な経費が補助対象となります。M&Aは成約すれば終わりではなく、その後の統合プロセスが成功の鍵を握るため、この枠の新設は非常に意義深いものです。

廃業・再チャレンジ枠

事業承継やM&Aに伴い、既存事業の一部を廃業する場合や、M&Aが不成立となり廃業を余儀なくされる場合の廃業費用を支援する枠です。補助上限額は最大150万円となっています。

各枠の詳細な要件や申請方法については、事業承継・M&A補助金の公式サイトで最新情報を確認することをお勧めします。

沖縄県の事業承継推進事業について

 沖縄県独自の支援策として、沖縄県産業振興公社が実施する「事業承継推進事業」があります。この事業は、後継者不在率が高い沖縄県の状況を踏まえ、事業の継続と雇用の維持を図ることを目的としています。

【図表4:沖縄県の事業承継補助金の概要】

項目内容
補助上限額100万円
補助率2/3以内
対象親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)
要件県内本社、常時雇用従業員1名以上
実施機関沖縄県産業振興公社
採択予定件数2件程度/回
出典:沖縄県産業振興公社

 令和7年度(2025年度)の事業承継補助金では、複数回の公募が実施されています。補助上限額は100万円、補助率は2/3以内となっており、事業承継に既に取り組んでいる事業者や、これから取り組もうとする事業者を支援しています。

応募要件は、沖縄県内に本社を構える中小企業・小規模事業者・個人事業主で、常時雇用する従業員が1名以上いることが条件となっています。親族内承継、従業員等承継、第三者承継(M&A)のいずれの形態も対象となります。

また、同公社では専門コーディネーターが事前相談や申請手続きのサポートを行っており、事業承継計画書の作成支援も実施しています。沖縄県内の中小企業経営者の皆様は、ぜひこの支援制度を活用していただきたいと思います。

特例事業承継税制(法人版、個人版)について

 事業承継における大きな課題の一つが、相続税・贈与税の負担です。この負担を軽減するために設けられているのが「特例事業承継税制」です。

法人版事業承継税制(特例措置)

 中小企業庁の公式ページによれば、法人版事業承継税制の特例措置は、非上場会社の株式に係る相続税・贈与税を、一定の要件のもと100%納税猶予(最終的に免除)する制度です。

【図表5:特例事業承継税制のスケジュール】

項目期限
特例承継計画の提出期限2026年3月31日まで
後継者の役員就任要件令和7年度改正で事実上撤廃
法人版の適用期限2027年12月31日まで
個人版の適用期限2028年12月31日まで
出典:中小企業庁

 適用期限は2027年12月31日までとなっており、特例措置を受けるためには、2026年3月31日までに特例承継計画を都道府県庁に提出し、確認を受ける必要があります。2024年度税制改正により、特例承継計画の提出期限が2024年3月末から2026年3月末まで2年間延長されましたが、それでも期限は刻々と迫っています。

重要なのは、令和7年度税制改正において、後継者の役員就任要件が事実上撤廃され、後継者が贈与直前に役員に就任した場合にも適用が認められることとなった点です。これにより、より柔軟な事業承継が可能となりました。

個人版事業承継税制

 個人事業者の事業承継についても、同様に相続税・贈与税の納税猶予制度が設けられています。適用期限は2028年12月31日までで、個人事業承継計画の提出期限は法人版と同じく2026年3月31日までとなっています。

個人版においても、令和7年度税制改正により、後継者の事業従事要件が事実上撤廃され、後継者が贈与直前から事業に従事していた場合にも適用が認められることとなりました。

特例事業承継税制は、要件が複雑であり、適用後も継続的な報告義務があるなど、慎重な検討が必要です。税理士等の専門家に相談しながら、自社にとって最適な事業承継の方法を検討することをお勧めします。

まとめ

 中小企業・小規模事業者の事業承継は、経営者個人の問題にとどまらず、地域経済、雇用、そして日本経済全体に関わる重要な課題です。特に沖縄県においては、後継者不在率が全国平均を大きく上回り、休廃業・解散件数も過去最多を更新するなど、極めて深刻な状況にあります。

しかし、国や沖縄県は、事業承継・M&A補助金の拡充、特例事業承継税制、中小M&Aガイドラインの改訂など、多様な支援策を講じています。これらの制度を適切に活用することで、円滑な事業承継が可能となります。

事業承継には平均で5年から10年という長い時間がかかります。「まだ早い」と考えず、早期から計画的に準備を始めることが成功の鍵となります。沖縄県事業承継・引継ぎ支援センターをはじめとする支援機関、専門家との連携を図りながら、自社の事業を次世代へ確実に引き継いでいただきたいと思います。

沖縄県の魅力ある企業、老舗の味、伝統の技術を未来へ継承していくために、今こそ事業承継に向けた一歩を踏み出す時です。


【参考URL】


クリックありがとうございます。
-------------------------------------
にほんブログ村 経営ブログへ

にほんブログ村 士業ブログへ



-------------------------------------