コンピテンシーとは?評価制度の作り方と職位別・職種別の設計ポイントを解説

コンピテンシーとは何か:まず「行動特性」に注目する

 コンピテンシーは、人や組織を評価するときに「何ができるか」だけでなく、「どのように行動して成果に結びつけるか」に焦点を当てる考え方として語られます。日本語の実務解説でも、コンピテンシーは高い成果を上げる人に共通する行動特性として説明されることが多いです。評価制度や育成に使われるのは、この“行動として観察できる”という性質があるからです。
 一方で、用語の使い方は文献や実務で幅があります。知識・スキルまで含めて説明される場合もあるため、社内制度に落とす際は「自社が何をコンピテンシーとして定義するのか」を先に揃える必要があります。定義を曖昧にしたまま導入すると、評価の納得感が下がりやすくなります。 Source


提唱の背景:McClelland(1973)が問題提起した「テストで何を測るべきか」

 コンピテンシーが語られる文脈では、David C. McClelland(ハーバード大学)が1973年に発表した論文が頻繁に参照されます。McClellandは、従来型の知能・適性検査が、学校の成績など“テストに近い成果”は予測しやすい一方で、仕事や人生の成果(life outcomes)と十分に結びついているのかは慎重に見るべきだと論じました。
そのうえで彼は、抽象的な能力名を測るのではなく、基準となる行動を直接サンプルする「criterion sampling(基準サンプリング)」を重視します。運転能力を知りたいなら運転テストをする、という例が本文で示されています。また、テストは「人生の成果のまとまり(clusters of life outcomes)に関わるコンピテンシー」を測るべきだとも述べています。ここでいうコンピテンシー(competence)は、実際の成果に結びつく行動や、その背後にある思考パターンも含めて捉えようとする議論として読めます。


図でつかむ:コンピテンシーの「氷山モデル」

 コンピテンシーの説明でよく使われる比喩に「氷山モデル」があります。氷山は水面上に見える部分が小さく、水面下に大きな塊があります。同様に、仕事の場面で目に見えやすいのは知識やスキルですが、態度・思考スタイル・自己イメージなど、行動に影響する要素は見えにくい、という趣旨で説明されます。

 ここでは“見えにくいものほど大事”と単純化したくなりますが、評価制度としては注意が必要です。制度は「観察可能で説明可能」な基準で運用される必要があります。したがって、氷山モデルは「深層要素を直接断定して評価する」ためではなく、「行動の背景にある要因を想定し、育成や支援の設計に活かす」ための補助線として扱うのが安全です。


図表:氷山モデル



 氷山の下にある要素は、面談や経験学習、配置、上司の支援設計と相性が良い領域です。逆に、評価シートの文言に落とす際は、具体的行動に翻訳して書かないと運用が崩れやすくなります。


コンピテンシーの種類:コア/職種別/職位別という整理

 実務上は、コンピテンシーを「誰に共通か」で整理すると混乱が減ります。たとえば、職種や職位にかかわらず求めたい行動特性はコア(共通)として整理し、営業や研究など職種で変わるものは職種別、マネジメント責任の有無で変わるものは職位別、という分け方が一般に行われます。
 この整理が役立つのは、同じ行動名でも「誰にどのレベルまで求めるか」を分離できるからです。たとえばコミュニケーションは多くの職種で重要ですが、管理職に求められるのは“調整・合意形成”を含む場合が多く、一般職は“正確な報連相”が中心になる、といった具合です。


コンピテンシー評価とは:成果ではなく「成果につながる行動」を評価軸に入れる

 コンピテンシー評価は、仕事で高いパフォーマンスを発揮する人材に共通する行動特性を基準にして行う人事評価、という形で説明されています。行動や思考のプロセスを言語化し、評価基準を具体化しやすい点がメリットとして挙げられます。
また別の解説でも、コンピテンシー評価は「高いパフォーマンスを発揮する人材に共通する行動特性」をもとに評価基準を作る、と述べられています。 

 ただし、ここで誤解しやすいのは「成果を見ない評価」だと思ってしまう点です。実務としては、成果(結果)と行動(プロセス)をどう組み合わせるかが設計の要になります。行動だけを見て成果が無視されると、評価の公平性に疑義が出ることがあります。反対に成果だけを見ると、再現性ある育成につながりにくいという問題が残ります。


コンピテンシーの抽出方法:アンケートよりも「行動の事実」を集める設計へ

 コンピテンシーを作る工程は、要するに「高業績につながっている行動を、再現可能な言葉にする」作業です。ここでは、手段としてアンケートやヒアリングが用いられますが、制度に耐える材料にするなら、個人の印象ではなく具体的エピソード(いつ・誰に・何を・どうした)を集めるのが基本になります。
 McClellandが示したような“基準となる行動を直接サンプルする”発想は、コンピテンシー設計にも親和性があります。抽象語を並べるのではなく、職務で必要な行動を観察可能な形に落とすほうが、評価のブレを抑えやすいからです。 


図表:コンピテンシー→評価基準へ落とす「3層」テンプレ

 ここは制度設計で最も差が出るので、図表として置ける形にします。

何を書くか例(コミュニケーション)
行動特性(項目名)評価したい行動のテーマ関係者と情報を共有する
定義その項目を“何として扱うか”必要な情報を適時に整理し、関係者へ伝達する
観察指標(行動例)見たら判断できる行動会議前に論点を整理して共有する/決定事項を記録し関係者へ展開する

 この表のポイントは、最後の「観察指標」を必ず置くことです。ここが薄いと、評価者の主観が入りやすくなります。


代表的なコンピテンシー領域(例示):名称より“観察できる行動”へ

 実務では、成果達成志向、コミュニケーション、チームワーク、マネジメント、部下育成、顧客志向、自己研鑽、時間管理、問題解決、関係構築など、複数領域で整理することがよくあります。
 ただし、同じ名前でも運用結果は設計次第です。たとえば「成果達成志向」を掲げても、評価シートが抽象的だと“気合がある人が高評価”のような事故が起きえます。そこで、項目名は短くても、定義と観察指標を具体化し、職務内容に合わせて調整する必要があります。


一般職と管理職で評価設計が変わる理由:期待行動の“範囲”が違う

 一般職と管理職では、同じコンピテンシー名でも期待される行動の範囲が変わります。管理職は成果を自分の仕事で出すだけでなく、チームの成果を設計し、意思決定し、関係者を動かす責任が加わります。
 したがって職位別設計では、「同じ項目を使い回してレベルだけ上げる」だけでは不十分なことがあります。たとえばコミュニケーションは、一般職では報連相の正確さが中心でも、管理職では調整・交渉・合意形成が評価の中心になることがあります。ここを分けて書くと、評価者も被評価者も判断しやすくなります。


資格等級別の評価基準:具体化のメリットと、範囲が狭くなるリスク

 評価基準を具体的にすると、判断がしやすくなる一方で、基準の外にある重要行動を拾いにくくなる、というトレードオフが起こりえます。
 この問題は、制度の欠陥というより「設計の前提」です。対策としては、評価項目を増やすことよりも、等級ごとの期待行動を整理し、運用しながら見直す仕組みを持つことが現実的です。環境変化によって“求められる行動”が変わる点は、コンピテンシー評価のデメリットとしても指摘されています。 Source


導入時の留意点:「知っている」ではなく「やれている」を扱う

 コンピテンシーの要点は、理解より実行にあります。言い換えると、評価制度の文章がいくら立派でも、現場で観察できる形になっていないと運用できません。
 また、教科書的に見える行動が混ざること自体は不自然ではありません。高業績者が実際にやっている行動を抽出すると、基本動作が高い水準で徹底されている、という形で現れることがあるからです。重要なのは「当たり前の基準」を置くことではなく、当たり前を“当たり前にやり切る”行動として定義し、評価できる状態にすることです。


まとめ:コンピテンシー評価は「行動を言語化する」設計力で決まる

 コンピテンシーは、高業績につながる行動特性に注目し、人事評価や育成へつなげるための枠組みとして整理されています。
 McClelland(1973)が強調したように、抽象概念を測るより、基準となる行動を直接サンプルする発想は、評価制度の実装にも示唆を与えます
 最後に、氷山モデルの比喩は便利ですが、制度としては「見えにくいものを推測して評価する」のではなく、「観察できる行動へ翻訳して評価する」方向で使うのが安全です。


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