「ジョブ・ローテーション」と「人事異動」
日本企業においては一般的な人事施策ともいえる「ジョブ・ローテーション」ですが、リンクアンドモチベーションの宮澤優理氏(人事の地図 2023年5月号)によると、「人事異動」とは厳密には異なるものだということです。
その違いを以下のように説明しています。
人事異動とは、配置転換(横の異動)や役職付与(縦の異動)などによって、組織の中で社員の役割を変えること全般を指す。その目的は、経営戦略に基づいた部署強化や欠員補充などになることが一般的である。
一方ジョブローテーションの主目的は、「長期的な人材育成」と「会社全体の風土づくり」になる。ジョブローテーションによって社員に全社視界をもたせることで成長を促すと共に、人材をローテーションさせることで組織風土の活性化を図っていく点に主眼が置かれている。
そのため、人事異動は短中期的な効果をねらう施策、ジョブローテーションはより長期的な効果をねらう施策であると言える。
人事の地図 2023年5月号
「ジョブ・ローテーション」と「人事異動」の定義の違いを整理すると以下の図表になります。
[出所] 人事の地図 2023年5月号 を基に著者が作成
ジョブローテーション の主目的は先述したとおり、「長期的な人材育成」と「会社全体の風土づくり」です。人事異動は短中期的な効果をねらう施策である一方で、ジョブローテーションはより長期的な効果を狙う施策と言えます。
ジョブローテーションのメリットとして挙げられるのは、①適材適所の判断基準になる点や、②部署間の連携や交流が促される点があり、その結果、イノベーションが創出されやすくなることが期待されます。
一方、デメリットとして考えられるのが、①短期的に生産性が低下したり、②育成コストがかかる点です。また、特定領域の知識・経験が求められるスペシャリストの育成には不向きだといわれています。
さらに、ジョブローテーションに限らず人事異動全般に言えることですが、役割や環境が変わることで新鮮さを感じ、モチベーションが上がる社員がいる一方で、「自分にはこの業務が合わない」「やりたい仕事ではなかった」等で③モチベーションが下がる社員がいるかもしれません。
ジョブローテーションを成功させるには、経営層やマネジメント層が、全社視点をもち「部署として人は出せない」という姿勢を排除していくことや、社員の成長機会とするために、「今までのキャリアを移動先でこのように活かして欲しい」など、明確にその目的を伝えることができる状態にしておくこと、つまり対象社員のキャリア設計をしたうえでジョブローテーションを行うことが必要です。
人材育成計画に紐づいた異動と、対象社員の成長機会や希望をできるだけ合致させた上で実施していくことが、必要になります。
ジョブローテーションを効果的な取り組みにするためは、正しく現状把握をすることが大切です。その手段として「エンゲージメントサーベイ」や「360度サーベイ」を利用する企業が多いです。
人材の多様化が進む時代の中で、自社の問題・課題をしっかり把握した上で 「ジョブ・ローテーション」 と「人事異動」の定義を明確にし、課題解決の手段として活用していくことが重要だと思います。