これからのピープルアナリティクス
2016年頃から日本国内で浸透しはじめたと言われるピープルアナリティクスですが、今後、どのような姿に変容していくのでしょうか。
それを考える上で、「データの変化」「ユーザの変化」「プラットフォームの変化」「ガバナンス・アナリティクス組織の変化」の4つの視点で整理してみます。
1.データの変化
ピープルアナリティクスで取り扱うデータ範囲は、日々進化しています。これまでは人事システムに格納されているような能動性の低い異動データ・評価データといった情報が中心でしたが、近年ではエンゲージメント調査などのパルスサーベイのデータなど、日々の社員モチベーション変化を示す能動性の高いデータが分析対象として活用されるようになってきています。
また、健康経営等の観点から、個人情報等の課題はあるながらも、本人の体重や体調の変化などを示す情報を試行的に採取するようなケースも増えてきています。
一部の先行研究では、プレゼンテーイズム向上のために、日々の運動と身体的な変化(血液成分の変化など)などとパフォーマンスを組み合わせて、健康経営における有効性を検証するような動きも出はじめています。
今後活用が進むと想定されるデータ領域として以下のようなものがあります。
・日々のモチベーション変化情報
Lパルスサーベイ
・日々の仕事の活動情報
Lメールや会議、周囲とのコミュニケーション情報
・身体活動情報
Lウェアラブル抽出情報
・健康データ
L健康情報、メンタル情報
・ナレッジデータ
Lアイデアの発展情報
・ビジネス/各部門データ
L財務データ、各部門固有情報
上記を進める際の重要課題としては、社員からの同意を得るという点があります。考え方の1つとしては、社員自身がデータ開示とその結果分析に対する『選択権』をもつことがあります。
このような考え方は「データの民主化」と言われたりしますが、自身のデータを共有するかどうかは、社員個人の判断に委ねられる方法が進むことが想定されます。
2.ユーザの変化
これまでのピープルアナリティクスは、人事や会社側の視点で情報を得て、組織としての人材マネジメント上の課題を検証するために活用されてきたケースがほとんどです。
しかしながら、データを得る範囲には限界がある点と、新たなデータを得るためには、社員自身や現場部門が分析にメリットを感じられるようにしていくことが求められることを考えられ、最終的には分析結果は社員自身や現場部門により開示される方向に進んで行くことが想定されます。
ある大手製造業の事例では、スキル・経験データなどを社員自らが入力することで、社内における登用ポジションや、将来的なキャリアパス予測が本人に即時開示されるシステムを開発しました。このことで、社員のスキルや経験の情報登録入力率を30%ほど改善したそうです。
こうしたキャリア予測モデルは、人事システムやLMS(Learning Management System)などにも搭載されていることがありますが、分析を機能させるためには、本人が必要データを登録していることが必要です。
ポイントとしては、社員にメリットがある分析結果を明示できれば、社員は自ら望んで情報を提供することもあり得るという点です。
そのような土壌ができれば、営業日報や行動データを人事を介さずにタイムリーにデータ収集できるようになるため、現場部門における情報価値が向上していくというよいスパイラルが醸成されていくでしょう。
3.プラットフォームの変化
先述した、「データの民主化」や「セルフサービスの拡大」が進むと、これらのデータプラットフォームを現場に開放していくことを検討しなければなりません。
もちろん、情報上の権限管理は厳密に行う必要がありますが、それ以上に重要なのがユーザビリティ(使いやすさ)をいかに担保するかです。
分析リテラシーにばらつきがある現場部門や社員が操作しやすいように分析ツールの一般化が重要です。
こうした動きは、人事が、従業員や現場に対しての分析サービスプロバイダーとしての役割転換することと同義になってきます。それは、事業価値を高め、社員エンゲージメントを高める流れとなっていくでしょう。
4.ガバナンス・アナリティクス組織の変化
アナリティクスを推進していくには、様々なデータが必要になります。分析担当者の立場からすると、新たな発見を求めるために様々なデータを活用したいという欲が出てきます。
しかしながら、個人情報保護の観点から言えば、大きなリスクがあることに留意しなければなりません。
ここまで、これからのピープルアナリティクスについて、4つの視点から述べてきましたが今後、人事が取るべきポイントについて、最後に整理します。
①アジャイルに進める
有用データ結果は100回中2~3割程度であることを認識して進めること
②データ提供者である社員に「どれだけ役に立てるか」を考える
③新たなデータソースを考え続ける
④経営・他部門とのアライメントを考える