会計戦略分析について
人的資本経営というキーワードを、メディアでよく見かけるようになった。
「無形資産」「企業価値向上」といったワードが含まれることが多いが、企業価値経営の一環として人的資本経営があるのではないか、という視点がある。
上記視点に立つと、企業価値経営の全体像を理解することが必要ではないかと思い、リサーチを進めている。
今回は、経営価値経営で必要な「会計分析」にフォーカスした。
人的資本経営の火付け役となった伊藤邦雄さんの著書「企業価値経営」の中で、『会計戦略分析』という項目があるが、その内容を踏まえて整理していきたい。
現行の会計ルールは、企業に対して会計処理に一定の自由を認めている。そのため、各企業はその環境と選好にもとづいて、規制の枠内で自由に会社方針を選択することができる。
そのような「柔らかい秩序」の中での各社における会計戦略を分析して本質に迫ることは、経営診断の際にも必要であろう。
まず、現状を整理してみよう。
日本国内では、財務報告に以下を選択することができる。
・日本基準
・国際会計基準・国際財務報告基準(IFRS)
・米国基準
・修正国際基準
どの基準を採用しているかは、決算短信の表紙や有価証券報告書にて確認することができる。
基準によってルールに違いがある。例えば、のれんは、日本基準は『償却』だが、IFRSや米国基準は『減損』となる。
会計処理方法は、同一産業内でも企業によって大きく異なる。例えば、以下のような項目である。
・棚卸資産の評価方法:移動平均法、総平均法
・有形固定資産の減価償却:定率法、定額法
・引当金の内容:貸倒引当金、賞与引当金、退職給付引当金、役員賞与引当金など
・のれんの償却方法:定額法、※なし
会計政策の類型化にあたっては、①技術的会計政策と②実質的会計政策の2つの視点がある。
①については
・固定資産の減価償却方法の変更
・固定資産の減損処理
・引当金の計上
などが該当する。
②については
・広告宣伝費の圧縮
・研究開発費の圧縮
・リストラクチャリングの促進
などが該当する。
上記のような会計政策を行う理由としては、以下が挙げられる。
①情報インダクタンス
情報の受け手にどのように評価されるかを予測した意思決定である。例えば、「事業構造改革引当金」は、当期利益に対してマイナス要因になるが、企業外部には改革に取り組む姿勢をアピールできる。
②経営者報酬
経営者の報酬と会計数値がリンクしている場合、経営者は自己の報酬を増額させることができる。
③財務制限条項
「一定の条件を満たさない限り、配当を禁じる」などの財務制限条項がある場合、その抵触を回避することができる。
④規制
公共事業などの規制産業は、過度な利益を出すと規制当局から価格低下を求められる可能性があるので、それを回避することができる。
⑤評判・社内のマインドセット
従業員に自社に対する危機意識を高めてもらいたいときや、給与削減や雇用削減を行う際に、高い利益をあげていたのでは実行しにくい状況を回避することができる。
⑥経営者交替
会計数値は、企業の業績評価の指標であると同時に、経営者の成績表でもある。日本企業のトップ交替では、①退陣するトップにとって最終的な評価になり、②新経営者の評価基準 ともなる。
会計政策では、「利益平準化」と「ビッグ・バス」という2つのパターンが存在する。
①は、各期の利益を一定水準に平準化することをいう。これにより、株主やサプライヤーなどへの影響を回避している。
②は、業績悪化時において、将来に悪い影響を及ぼす可能性のある項目を当期に費用化し、当期の業績をさらに悪化させることにより、次期以降の報告利益の増加を意図するものである。