人材開発 8つの理論・概念(後半)
書籍『人材開発・組織開発コンサルティング』では、人材開発の研究の中で、近年重要となっている以下8つの理論・概念を紹介しています。こちらの項目に沿って、ポイントを整理していきたいと思います。
なお、今回は、後半の4つについて記載していきます。
1.組織社会化
2.組織再社会化
3.経験学習
4.職場学習
5.越境学習
6.研修転移
7.オンライン学習
8.リーダーシップ開発
前半(1-4)については、前回の投稿をご覧ください。
5.越境学習
人材開発のメインストリームは、前回論じた「組織社会化」や「経験学習」、「職場学習」などの概念のように、組織内部での学びや変化にあることは間違いありません。
しかし、課題として、長い期間、同じ職場で、同じような職務に就いて経験から学び続けていくと、確かに組織内の業務には熟達し、様々な仕事が自動的に行えるようになりますが、同時に以下のような特性も獲得してしまいます。
・過剰適応
組織に適応しすぎると、組織において決められたこと(ルーティン)だけを盲目的にこなす存在になってしまう。
・能動的惰性
外部からの圧力や刺激がないときに「そのまま」の状態で変わらずにいること。そのような不活性の状況に長くいると、「変わらないこと」を主体的に選択するようになる。
いつも慣れ親しんだ組織に甘え、そこで行われる定常業務にしがみついたり、マンネリに陥ってしまいます。
そこで注目されるようになったのが、組織の外と内を往還するようなダイナミックな学び「越境学習」です。組織外で成長を促すと共に、組織外で学んだことを組織に還流させることを目的としています。
6.研修転移
研修転移とは、「研修で学んだ内容が、現場で実践され、成果を上げること」を言います。
そもそも研修とは、「仕事の現場を離れて、仕事にまつわる内容を学ぶこと」です。仕事の現場から離れて、教室等で学ぶことに焦点があたります。
研修については、1970年代より、「教授設計理論」が発展してきました。教授設計理論とは、教えることや教材を体系的に生み出す実践的技法です。
以下5つの要素があり、「ADDIEモデル(アディーモデル)」と呼ばれています。
LADDIEモデル
①分析
②設計
③開発
④実装
⑤評価
繰り返しになりますが、研修転移とは、「研修で学んだ内容が、現場で実践され、成果を上げること」となり、日本において、注目され始めている概念です。
日本でこのような概念が注目されはじめたのは、企業研修において「研修で学ぶことが自己目的化」していたり、参加者を満足させたり、モチベーションを一時的に上げることが目的になっていることもあるからです。
しかし、人的資本投資を行ったのにも関わらず、それが現場で実践され、成果を残せないのだとすると、研修そのものの持続可能性が問われてしまいます。
そこで注目されはじめたのが、「研修移転」です。
研修転移を重視するということは、「研修で学んだ内容が実践され、成果を残せる」ように研修をデザインし直すということになり、結果、研修の評価も、研修に参加した人が現場で行動変容を行ったかどうかが問われることになります。
研修の効果は、研修それ自体では決まることはなく、研修転移が起こるかどうかは、研修参加者の組織風土や、上司や同僚からのサポートレベルの高さによって決まります。
そのため、研修という枠組みの外部で、人材開発担当者から研修参加者の上司に対して事前の巻き込みや働きかけをすることや、研修終了後のレポーティングなどを行うことが必要になるのです。
研修転移のためには、研修の事前・事後に行う働きかけを含めて、研修を「プロセス」として、全体で設計していく必要があります。
・どんな人に参加してもらうのか
・参加者の上司や現場の人たちをどう巻き込むのか
・授業・教材・ファシリテーションなどの研修そのもののデザイン
・現場にもどったあと、学んだことを活かせる機会をどうつくるか
など、トータルな設計が求められるようになります。
7.オンライン学習
オンライン学習は「対面学習と同等か、それよりも学習効果は高い」というのが研究者の間での緩やかな合意であり、オンライン学習は、決して「対面学習の劣化版」というわけではないという見解になっています。
企業研修においても、今後は、オンライン研修、ないしは、ハイブリッド方式研修がさらに常態化していくと思われます。
もちろん、企業研修の中にはオンラインで扱いにくいテーマがあるのも事実です。例えば、実習が伴う技術研修や、ビジネスマナー研修など、身体的動作をしなければいけない場合です。
また、オンライン学習は、一方的にコンテンツを伝えることは向いていますが、「コミュニティづくり(研修参加者同士の縁を早期につくり出すこと)には向かないところがあります。
このように、オンライン学習には限界もありますが、コスト面など、それを上回るメリットもありますので、今後、企業研修において、さらに普及していくものと思われます。
8.リーダーシップ開発
リーダーシップ開発とは、「リーダーシップを発揮できる人材を、いかにつくり出すことができるか」ということを研修する新たな領域です。
リーダーシップ開発では、前提として、「リーダーシップ」とは「後天的に育てることができるもの」・「一生をかけて発達するもの」という立場をとります。
最も現場で実践されているのは、人材開発の基礎原理である経験学習理論を発展させた「経験学習型リーダーシップ開発」と言われるものです。
経験学習型リーダーシップ開発では
①人をリードする経験を積む
②そうした経験の振り返りを行う
を通じて、リーダーシップ開発していきます。すなわち「経験学習モデル」をリーダーシップに適用し、実践するのです。
具体的には、以下の流れになります。
①リーダーシップを開発したい個人を集めた異種混交のチームをつくり
②容易に成し遂げることができないようなタフな課題解決をチームに迫り
③チームでやり取りしながら成果を創出させる
タフな課題解決に取り組む間、チームの内部では様々な葛藤が起き、メンバー同士のやり取りが生まれます。こうした出来事を折に触れて
④俯瞰的に振り返って内省を行ったり
⑤チームメンバーから様々なかたちで交互にフィードバックを行ったりします。
要するに、リーダーシップを発揮する機会を学習者に付与し、そこで得られる経験を振り返って学ぶという経験学習を繰り返していくことが、リーダーシップ開発につながる、ということになります。
以上で、人材開発の基礎概念として、8つの概念を整理してきました。
実務上の実践の際に、これらの概念を照らしてみることで、より詳細に分析できると思います。