ピープルアナリティクス プロジェクトの全体像

 ピープルアナリティクス(People Analytics)とは、社員の人事データや行動データ、属性データなどを集めて分析し、組織の課題解決につなげる手法のことです。 採用活動や従業員満足度の向上、教育評価制度など活用範囲は多岐にわたります。

ピープルアナリティクスを実践していく上で最も大事な心得は「施策や成果につながらないデータ分析は無意味」と肝に銘じることです。データ分析を通じて、何のためのアウトプットを出すのかを明確にして取り組むマインドが重要になります。

また、人事領域のデータを扱うにあたり、対象者の人生に関わるものを扱っているという認識とともに、高い倫理観が求められます。

加えて、人事領域の情報になるため、プライバシーの問題からデータ化されていなかったり、分析に使いにくいものもあります。倫理上問題のあるデータはそもそも取得しないという判断が必要ですが、データ化が困難だが不可能ではないものについては、必要であればデータ化する試みは常に意識しておく必要があります

では、ピープルアナリティクスにおけるプロジェクトをどのように実践するのかを4つの手順で説明していきます。

手順1:プロジェクトの設計

 プロジェクトの設計には、以下7つのポイントがあります。

①課題抽出
②筋のよいプロジェクト選定
③成果から逆算の設計
④簡易要件定義書の作成
⑤チーム設計
⑥「業務効率型プロジェクト」と「分析型ブロジェクト」ポートフォリオを組む
⑦早い段階で現場を巻き込む

特にポイントとなる点は、②と⑤、⑥です。

②筋のよいプロジェクト選定

 筋のよいプロジェクト選定は、事業・人事課題のリストアップから始めます。把握しているものに加えて、事業部や人事に関わる部署にも直接ヒアリングするようにします。

なぜなら、思い込みだけで課題や想定施策を設定すると、後々現場から実態と違うと指摘されたりして、無意味なプロジェクトになりかねないからです。

課題のリストアップは以下のような一覧表を作るのをおすすめします。そして課題そのものをISAI基準で選定します。

Impact:事業インパクトがあるかどうか
Speed:緊急度はどの程度か
Action:施策の実行可能性は?
Insight:新しい発見はありそうか?

[出所]一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会著「ピープルアナリティクスの教科書」を基に著者作成

なお、プロジェクトを選定する際には、実行方法の方向性が見えている状態で進めていくことが望ましいです。

⑤チーム設計

 ピープルアナリティクスプロジェクトを進めるにあたり、大きく5つの役割があります。この役割が果たせるようにチーム設計を行うことが望まれます。

 1.人事系課題施策の実行
 2.プロジェクトマネジメントの推進
 3.分析や可視化の実務
 4.データエンジニアリングの実務
   Lデータ加工ツール
    ・アリタリクス
    ・データスパイダー
    ・TableauPrep
   Lデータベース言語
    ・SQL
    ・Python
    ・R

⑥「業務効率型プロジェクト」と「分析型ブロジェクト」ポートフォリオを組む

 ピープルアナリティクスプロジェクトは、大きく「業務効率型プロジェクト」と「分析型ブロジェクト」に分かれます。

 業務効率型プロジェクトは、例えば、月10日かかっていた社員数把握レポートを、データ加工・可視化の自動化により月1~2時間で完了させるようなプロジェクトです。

こうした業務は費用対効果が見積もりやすく、成果も出しやすいと考えられます。

一方、分析型ブロジェクトは、『健全な組織づくり』や、『退職率を下げるための課題発見』といったような試行錯誤が伴うことが多いプロジェクトです。

このような課題への取組は、試行錯誤の上、効果検証自体に時間がかかるため、費用対効果は見積もりにくく、意図した成果が得られるかが分からないというリスクがあります。

そのため、まずは「業務効率型プロジェクト」を先に進めて成果を出す、もしくは双方のプロジェクトを同時に進行させてプロジェクト全体が失敗するリスクを下げるという進め方もあります。

手順2:データの前処理

 データの前処理とは、様々なデータを統合・加工し、ピープルアナリティクスが実行可能な状態のデータにすることです。異なるデータを結合・集計するなどの「データ構造」を変えるものや、生年月日から年齢を計算するなどの「データの中身」を変えるものがあります。

 データ加工プロセスは全行程の5割~7、8割を占めることもあり、地道で根気を要しますが、分析の根幹に関わる重要なプロセスです。

 前処理のポイントは、以下4点があります。

①分析に使用するデータから逆算する

 集計したい表、グラフから逆算して、結合すべき元データに何が必要か、どのようなプロセスで結合、加工するかを検討します。

②保持データの一覧化

 人事データが点在しているようであれば、分析の前に人事系データのリストを作ります。
 データのリストは、「どのようなデータテーブルを保持しているか」というリストと、「テーブル内のカラム名(列名)がわかるもの」の両方があることが望ましいです。

③データを信じない

 うっかりミスを犯さないために、入手したデータは、基本的に何らかの誤りがあるという前提でデータに向き合うことが必要です。

④前処理ツールの使用

 データの前処理は、データエンジニアなどであれば以下のようなプログラムで処理することが多いです。

 ・Python、R、SAS

プログラムを使わない場合、以下のような市販ツールを使用すると生産性が上がります。

・アルタリクス、データスパイダー、TableauPrep等

手順3:分析・可視化
 
 分析結果を素早く伝えるために、以下のようなデータ分析を実施します。

クロス集計
統計検定     :大小関係の差を検証
相関係数     :変数間の線形の強さ
回帰分析・機械学習:予測
クラスター分析  :分類
情報の縮約    :因子分析・主成分分析

また、分析・可視化には4つのポイントがあります。

①伝えたいメッセージから逆算する

可視化で最も重要な点は、「誰に、どんなときに、何を伝え、どのようなアクションを引き起こしたいか」から逆算することです。

誰に
どんなときに
何を伝えるか
どうしたいか

上記の具体例としては以下のようになります。

採用チームに
次年度採用計画を立てる振り返りをするときに
内定受諾率が年々下がっているため、その改善施策を検討する必要があること
内定受諾率増加に焦点を絞って議論したい

②目的に応じた表、グラフを用いること

以下のような表やグラフを、目的に応じて活用します。

数表
棒グラフ
100%構成比グラフ
折れ線グラフ
ヒートマップ
度数分布
円グラフ
散布図
箱ひげ図
ツリーマップ
地図

③可視化の要素を分解して考える

 表現する情報を可視化の構成要素に分けて考えることで、見せ方の判断をすることができます。

④BIツールによるグラフのスピード化

 TableauなどのBIツールを活用することで、グラフ作成やデータ共有のスピード化が図られ、生産性を上げることができます。

手順4:施策・運用

 「現場との信頼関係」を築き、「成功例を関係者と共有」することが重要です。もし効果がなかった場合はその原因を探り、改善していけばいいのです。


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