経営戦略について②_成長戦略

 前回では、全社戦略(企業戦略)の企業ドメインまで整理していきました。今回は、引き続き全社戦略の成長戦略以降について、整理していきたいと思います。

前回(経営戦略について①)はこちらから

経営戦略について①

[出所]一般社団法人 日本経営協会マネジメント検定テキストを基に著者作成

■成長戦略

 多くの企業において、経営目標には「成長」という要素が含まれています。企業としての「成長」という目標は、組織の士気を高めるために、不可欠な要素です。

 成長戦略の策定をモデル化した考え方として最も有名なものが『製品-市場マトリックス(成長ベクトル)』です。また、成長戦略の具体的な手段としてM&Aによる多角化戦略を採用する企業も少なくありません。

■製品-市場マトリックス(成長ベクトル)

製品-市場マトリックス

1.市場浸透戦略
 ①市場シェアを拡大する方向性
  ・他社製品に勝る製品の開発
  ・低価格化
  ・プロモーション強化

   L競争戦略とマーケティング戦略が併用される場合が多い

 ②需要規模を拡大する方向性
  ・使用頻度を増やす
  ・1回の使用量を増加させる
  ・周辺製品や付帯サービスを拡充する

   Lマーケティング戦略上の戦術的アプローチが有効

2.市場開拓戦略
  例)首都圏で販売していた商品を九州でも販売する
  ・地理的に別な市場
  ・異なった顧客セグメント
    L販売チャネルの再考を伴う場合がある
  ・現在の市場をさらに細分化してニッチな市場をねらう

3.製品開発戦略
  ①製品特徴の追加
   例)乗用車
     ・細部のデザイン変更
     ・内装仕様の洗練化
       L製品の魅力を再活性化

  ②製品ラインの拡張
   ・それほど大きな投資をせずに、顧客にとっての選択幅を増やす
   ・目新しい製品ラインが加わることで、製品の魅力度やブランド価値を再度高める
   
  ③新世代製品の開発
   ・大きな投資を必要とする
   ・既存顧客の期待を維持し、企業ブランドの価値を保つために重要
   ・競争優位性を保つと同時に、新たな競合企業(新規参入)の出現を抑止する

  ④既存市場に向けた異質な新規製品の導入
   ・製品開発面やマーケティング面で大きな投資を必要とする
   ・既存製品とほとんど共通性のない新規製品を市場に送り出すこと

4.多角化戦略
   ・市場開拓戦略や製品開発戦略との線引きが難しい場合あり
   
  企業や企業グループが成長していくために4つの戦略パターンを、どのように組み合わせていったらよいかを考えることが必要です。

■多角化戦略(広義)

・多角化戦略を行う動機
 多角化を行う企業には、次のような動機があると考えられます。

 ①主力製品の需要停滞
 ②収益の安定化
 ③範囲の経済の追求
 ④未利用資源の活用
 ⑤魅力的な新分野への展開

・多角化とシナジー
 シナジーとは、相乗効果という意味です。アンゾフは、多角化によってシナジーが発揮される代表的なケースとして、以下の4種類を挙げています。

 ①販売シナジー
 ②生産シナジー
 ③投資シナジー
 ④経営管理シナジー

・多角化のタイプ
  多角化は、おおまかに、①関連型多角化と、②非関連型多角化に分けることができます。


  ①関連型多角化
   ・既存事業と関連のある分野に進出すること
   ・製品開発戦略と区別がつかない場合あり
   ・既存資源とのシナジーが期待できるために、失敗のリスクが低い
   例)富士フィルム
     Lコラーゲンの製造開発技術を軸として女性用化粧品の分野に進出
      L顧客ターゲットや見かけ上の機能に共通性がなくても
       既存製品と新製品の間で、生産や投資のシナジーが働いている

  ②非関連型多角化
   ・失敗のリスクが高い
   ・他事業分野の業績悪化の影響を受けにくい
   ・企業全体としてリスク分散を行うには適している
   ・コングロマリット

・多角化による「成長性」と「収益性」の関係

 多角化と成長性・収益性の関係は、以下の図表のようになるとされています。産業構造や国民経済の状態などに左右されるものの、一般的には多角化が進むにつれて成長性がほぼ直線的に増大する一方で、収益性はある程度の多角化までは増大するが、その後はかえって低下します。つまり、多角化がある程度を超えると、成長性と収益性の間にトレード・オフの関係がみられることになります。

 また、関連性の薄い分野への多角化は、シナジーが発揮されずに総コストが増大し収益性が低下する可能性があります。このことは、収益性を高めるためなら、技術などのコア・コンピテンスを基軸とした「関連型多角化」を志向し、成長性を高めるためなら、コア・コンピテンスをだんだんと移行しながら「非関連型多角化」を進めていく戦略が望ましいことを示唆しています。

■M&A戦略
 全社戦略の実行手段として、M&Aが採用される場合があります。企業が多角化を行う場合の1つの手段です。

合併
 吸収合併
 新設合併
買収
LBO:投資銀行などの第三者から借り入れた資金で買収を実行
TOB:株式市場で株式公開買付を行って株式を集める
MBO:現経営陣が株式を取得して買収を行う  例)ベネッセ

内部成長方式:企業が新しい事業をゼロから立ち上げる方式
外部成長方式:すでのその事業を営んでいる既存企業とM&Aや戦略的提携を行う方式

外部成長方式によって、必要な経営資源を短時間で手に入れることができます。これを「時間節約効果」と呼ぶことがあります。

・M&Aの目的

 -大企業
  ①市場支配力の向上
  ②規模の経済の追求
  ③範囲の経済の追求
  ④リスク分散

 -中小企業
  事業承継の手段

・M&Aに伴う課題
 時間節約効果や市場シェアの拡大など、M&Aにはメリットが多いですが、一方で結果的に失敗に終わる場合もあります。以下のような問題の解決を含め、統合的にM&Aによる効果を高めるプロセスをPMI(post-merger integration)といいます。

Lフィージビリティ・スタディ(実現可能性の検証)において 資産や負債の査定が甘く、思わぬ含み損を抱えている

L統合時に、能力を持った社員が辞めていってしまう

L企業文化の違いから、組織コンフリクトが生じてしまう

・敵対的買収への対抗手段

 友好的買収
 敵対的買収

①買収の予防的措置
 ・従業員の持株比率を上げ、安定株主を確保
 ・友好的株主に対し、黄金株(拒否権付種類株式)を付与
 ・買収で経営陣が解任される際、多額の退職金を支払う契約を締結し
  買収コストを引き上げる(ゴールデン・パラシュート)
 ・株式を非公開化(ゴーイング・プライベート、プライベタイゼーション)
 
②買収の対抗措置
 ・友好的株主に大量の新株予約権を与えておき、敵対的買収をしかけられた
  際に、新株予約権を行使してもらい、買収者の株式保有比率を低下させる
  (ポイズン・ピル、ライツプラン)

 ・友好的企業に買収してもらう(ホワイト・ナイト)
 ・敵対的買収者に対して、逆に買収をしかける(パックマン・ディフェンス)
 ・高収益事業を譲渡や分社化することで企業価値を大きく下げる
  (スコーチド・アース:焦土作戦)

■アライアンス(企業連携)

・アライアンスの多様な形態
  L企業がそれぞれの独立性を維持しながら、連携して成長や経営資源の補完を志向すること

 業務提携
 ジョイント・ベンチャー
 アウトソーシング
 コンソーシアム
 OEM
 ODM
 EMS
 共同開発
 販売委託
 生産委託
 ライセンス供与
 技術提携

 企業連携
 産学官連携
 農商工連携

 企業同士が日常の取引関係を超えて、中長期的に明確な目的を持って連携することを強調して、「戦略的アライアンス」と呼びます。

・アライアンスのメリット

 ①長期的で継続的な取引になるため、望む条件で経営資源を入手しやすい
 ②協働を通じて「知識」や「ノウハウ」まで獲得できる
 ③M&Aよりリスクが小さい
 ④多額の研究開発コストを、複数企業で分配できる
 ⑤業界ディファクト・スタンダードの構築をスピーディに
  行うことができる

・代表的なアライアンスの形態
 
 ①OEM:製造業者が他企業ブランドで販売される商品製造を担うこと
 ②ODM:製造業者が他企業ブランドで製品を設計・生産すること
   LスマホやPC業界で多い
 ③EMS:電気機器の製造受託サービスもしくは受託する企業のこと
   L例)台湾:鴻海

・アウトソーシング


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