コーチング③_コーチマインド3原則
スポーツの世界では、選手が兼ね備えるものとして、よく「心技体」と表現されます。コーチングでは、コーチが備えるべき「心」、マインドが特に重要です。このコーチが備えるべきマインドである「コーチングの3原則」について説明していきます。
コーチングの3原則とは、クライアントとの関わり方における、「双方向」「継続性」「個別対応」というマインドです。
①双方向
双方向とは、相手の発言を受けて、自分の言葉を投げかけ、またそれを返すというやりとりの繰り返し、それが双方向のコミュニケーションが成立している状態です。
クライアントとの対話は、常にクライアントの目標達成に関するものでなければなりません。
そして、最終的にはコーチなしでも、目標に向かって自ら考え行動できる状態、つまり、クライアントが自走している状態になることがコーチの役割です。
変化の早い現在においては、企業組織の中での個人の役割もそのスピードに応じて変化していきます。
そんな特急列車に乗っているクライアントがプラットフォームに降りて、自分自身と直面し、目標や自身の成長に向けて徹底的に考えるための対話をつくりだすのです。
無意識にあるものを言語化させて、行動に結びつくような気づきを得るには、クライアントにたくさん話してもらう必要があります。クライアントが多くのことを言語化する中で有効な「気づき」が得られるのです。
「気づき」が起こる仕組みを細胞レベルで捉えてみたいと思います。
細胞が情報を発信して、近隣の細胞へ作用することを「パラクライン」といいます。
ところが、細胞から発信された情報は、その細胞自身にも作用することがあるのです。これを「オートクライン」と呼びます。
会話の中で話し手が言語化し、自分のアイデアを認識する、つまりオートクラインを起こします。これが「気づき」であり、クライアントにオートクラインを起こすことが、コーチの重要な役割の1つなのです。
オートクラインを起こすためには、「対話の質と量」を向上させる必要があります。
対話の質を高める有効な手段は、「質問」です。クライアントの潜在意識に質問という方法で働きかけて、無意識を顕在化させるのです。
また、対話の量を増やすためには、コーチとクライアントの間の信頼関係が重要です。心理学では自分の心を開くことを「自己開示」といいますが、自分の心を開くと、相手もそれに応じて心を開いてくれるという「返報性の法則」があります。つまりクライアントに心を開いてほしければ、まずは自分の心を開く必要があるということです。
②継続性
本田宗一郎が「最後まで諦めなかった人間が成功している」と社員によく語っていたといいますが、成果を上げている人は「成功までやり遂げる」という行動特性があるのではないでしょうか。
コーチは、クライアントが目標達成まで諦めずに行動し続けられるように、クライアントの「意欲の維持向上」とズレが生じている場合の「軌道修正」を図ります。
クライアントの意欲を維持向上させるためには、マズローの5段階欲求でいう「自己実現の欲求」を満たすべく
クライアントの成長をサポートしていきます。
「自己実現の欲求」に向かうためには、その前提として、ビジネスという社会的な場において「所属の欲求」や「自我の欲求」を満たす必要があるのです。
「所属の欲求」、アクノレッジメントとは、相手の存在そのものを認める行為です。脳科学者の茂木健一郎さんは
人が成長するには「安全基地」の存在が不可欠だと言っています。安全基地とは、自分が安心して存在できる場所のことです。
コーチはクライアントにとって、安全基地のような存在でなくてはなりません。
私たち人間は、十分な安全基地を確保したうえではじめて新しいチャレンジに向かうことができるのです。
見守っているというメッセージを伝えるのに有効なのが、「変化に気がついてそれを伝えること」です。
クライアントは自己成長を再認識し、自己効力感を高めます。自己効力感とは「自分にもできるんだ」という自信であり、それによってクライアントは、次なるチャレンジに意欲的に取り組むことができるのです。
また、電話でのコーチングの場合、声のトーンや高さ、話すスピードなど、敏感にクライアントのノンバーバル(非言語)情報に注意を向ける必要があります。
所属の欲求が満たされないと、人は存在証明行為を取りはじめます。自分自身の存在を認めて欲しい、気にかけて欲しいとアピールを始めるのです。
コーチングにおいても、仕事の愚痴ばかりが目立つクライアントや体調不良が続いているクライアントなどは、アクノレッジメントが足りていない可能性があるので、「頻繁に連絡をとる」「いまの状況を否定せずに受け入れる」「メールには即時にレスポンスを返す」など、特に意識をして関わります。
「自我の欲求」を高める方法として、「ほめる」が代表です。その伝え方として3つのスタンスがあります。
①YOUメッセージ
②Iメッセージ
③WEメッセージ
①は「あなたは●●だ」と相手に伝えることです。
②は私のスタンスで、「参考になりました」など、相手の行動や存在が自分へどんな影響を及ぼしたのかを伝えるメッセージです。
③は私たちのスタンスで、「この会議が和やかになりました」など、より大きな影響力を相手に伝えるメッセージです。
一般的には②③の方が相手の心に残ると言われていますが、①を好む人もいますので、コーチはどのスタンスをとればいいかを見極める必要があります。
また、クライアントを「軌道修正」することも重要です。
軌道修正を図るには、「フィードバック」「リクエスト」「提案」を活用しますが、相手をよく知ること、つまり、観察なくしては成し得ません。
相手をよく理解せぬまま実施するアクノレッジメントや、適切なタイミングでなされないフィードバックは、クライアントにとって逆効果になってしまう可能性があります。
③個別対応
目標達成までのスピードを加速させるためには、クライアント一人ひとりに「個別対応」することが効果的です。なぜなら、行動を加速させるためのスイッチはクライアントごとに異なるからです。
そのためには、継続的なかかわりと、双方向の対話の中で、クライアントの発言や行動をよく観察し、性格や考え方、価値観をよく把握した上で対応しなければなりません。個別対応を図るうえでも「クライアントをどれだけよく知っているか」が重要になってくるのです。
コーチは、経験を積み成功体験が多くなると、そのテクニックを使った成功体験を次のクライアントにも適用させようとしてしまうことがあります。しかし、テクニックを駆使するだけでは、さまざまな個性をもつクライアントに対してのコーチングは成立しません。
コーチは、価値観や考え方をクライアントに押し付けてしまうのではなく、自分自身の価値観や考え方をいったん脇に置いて、いつも新鮮な気持ちでセッションに臨む姿勢こそ、個別対応するために重要です。
タイプ分けが参考としてあります。
ここまで説明した3原則は、どれか1つが満たされていればいいというものではありません。どんなクライアントに対しても、常に3つすべてを満たしている必要があります。
「双方向」の対話を「継続的に」実行し、それを一人ひとりの特性に合わせて「個別対応」していくことが必要です。