ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントの違いを徹底解説【人事担当者必見】


近年、企業の人材マネジメントにおいて「エンゲージメント」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。しかし、「ワークエンゲージメント」と「従業員エンゲージメント」という似た概念があることで、混乱している人事担当者やマネージャーの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、両者の違いを明確にし、それぞれの特徴や測定方法、向上させるための具体的な施策について詳しく解説します。正しい理解により、より効果的な人材マネジメント戦略を構築できるでしょう。
ワークエンゲージメントとは?定義と基本概念
ワークエンゲージメントの定義
ワークエンゲージメントとは、オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授によって提唱された概念で、「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態」として定義されています。
厚生労働省の令和元年版労働経済白書では、ワークエンゲージメントについて「働きがい」という概念で分析しており、日本国内での重要性が公的にも認められています。
具体的には、以下の3つの要素から構成されます:
1. 活力(Vigor)
- 仕事に高いレベルのエネルギーと精神的な回復力を持つ
- 努力を惜しまない意欲がある
- 困難に直面しても粘り強く取り組む
- 「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」
2. 熱意(Dedication)
- 仕事に強く関与している
- 意義や誇り、やりがいを感じている
- チャレンジ精神に満ちている
- 「自分の仕事に誇りを感じる」
3. 没頭(Absorption)
- 仕事に完全に集中している
- 時間の経過を忘れるほど夢中になる
- 仕事から離れることが困難に感じる
- 「仕事をしていると、つい夢中になってしまう」
ワークエンゲージメントの特徴
ワークエンゲージメントは、仕事そのものに対する個人の心理状態に焦点を当てています。これは単なる満足度や幸福感とは異なり、仕事への積極的で充実した関わり方を表現しています。また、バーンアウト(燃え尽き症候群)の対極の概念として位置づけられています。
従業員エンゲージメントとは?包括的な組織への関わり
従業員エンゲージメントの定義
従業員エンゲージメントは、ワークエンゲージメントよりも広い概念で、「従業員が組織に対して感じる愛着心や貢献意欲の度合い」を指します。
この概念には以下の要素が含まれます:
1. 情緒的な結びつき
- 会社への愛着や誇り
- 組織の価値観への共感
- 帰属意識の高さ
2. 行動的な関与
- 積極的な業務参加
- 自発的な改善提案
- 組織目標達成への貢献
3. 認知的な関与
- 組織の方向性への理解
- 自分の役割の明確な認識
- 会社の成功への関心
従業員エンゲージメントの特徴
従業員エンゲージメントは、組織全体との関係性を重視します。仕事の内容だけでなく、職場環境、同僚との関係、経営陣への信頼、キャリア機会など、より広範囲な要素を包含しています。
ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントの5つの違い
1. 焦点の違い
項目 | ワークエンゲージメント | 従業員エンゲージメント |
---|---|---|
焦点 | 仕事そのもの | 組織全体 |
対象 | 担当業務・職務内容 | 会社・職場環境全般 |
範囲 | 狭い(具体的) | 広い(包括的) |
2. 測定方法の違い
ワークエンゲージメント
- UWES(Utrecht Work Engagement Scale)という標準化された尺度を使用
- 17項目版(UWES-17)または9項目版(UWES-9)で測定
- 科学的根拠に基づく客観的な評価が可能
- 国際的に使用されている信頼性の高い測定ツール
従業員エンゲージメント
- 各組織が独自に設定する場合が多い
- 満足度調査や意識調査の一部として実施
- より主観的で多面的な評価
3. 影響要因の違い
ワークエンゲージメントに影響する要因
- 職務資源(自律性、技能活用度、上司のサポートなど)
- 個人資源(自己効力感、楽観性、レジリエンスなど)
- 仕事の意義や価値
- フィードバックの頻度と質
従業員エンゲージメントに影響する要因
- 組織文化・風土
- 経営陣への信頼
- キャリア開発機会
- 報酬・福利厚生
- 職場の人間関係
- ワークライフバランス
4. 改善アプローチの違い
ワークエンゲージメント向上施策
- 職務設計の見直し(ジョブ・クラフティング)
- スキル開発プログラム
- 目標設定とフィードバック体制の構築
- 仕事の意義を見出すワークショップ
従業員エンゲージメント向上施策
- 組織変革プログラム
- 経営理念の浸透活動
- 人事制度の改善
- 職場環境の整備
- コミュニケーション活性化
5. 効果の現れ方の違い
ワークエンゲージメントの効果
- 個人のパフォーマンス向上
- 創造性・革新性の発揮
- ストレス耐性の向上
- 仕事への満足度向上
従業員エンゲージメントの効果
- 離職率の低下
- 組織へのロイヤルティ向上
- 顧客満足度の向上
- 企業業績の向上
日本企業におけるワークエンゲージメントの現状
厚生労働省の調査データによると、日本の正社員のワークエンゲージメントスコアは以下のような傾向があります:
- 全体平均:2.64
- 活力:2.48(最も低い)
- 熱意:2.84(最も高い)
- 没頭:2.62
興味深いことに、職位が高くなるほどスコアが向上し、女性の方が男性よりもやや高いスコアを示しています。また、若い社員のスコアが低い傾向にあることも明らかになっています。
実際の測定方法と活用法
ワークエンゲージメントの測定
UWES-17(17項目版)の例
活力を測る質問:
- 「職場では、活力に満ち溢れていると感じる」
- 「仕事をしていると、時間の経つのが早い」
熱意を測る質問:
- 「私は仕事にのめり込んでいる」
- 「仕事は私にとって意義のあるものである」
没頭を測る質問:
- 「仕事をしている時、私は集中している」
- 「私は仕事に心を奪われている」
従業員エンゲージメントの測定
一般的な測定項目の例
- 会社への愛着度・誇り
- 経営方針への理解・共感
- 上司・同僚との関係性
- キャリア開発への満足度
- 報酬・評価制度への満足度
- ワークライフバランス
- 離職意向
効果的な向上施策
ワークエンゲージメント向上のための施策
1. ジョブ・クラフティングの推進 従業員が自分の仕事を再定義し、より意義のあるものにするプロセスです。
- 作業クラフティング:業務のやり方を工夫し、仕事の内容を充実させる
- 人間関係クラフティング:職場の人間関係に工夫を加え、より良い関係性を築く
- 認知クラフティング:仕事の捉え方や考え方を変え、業務への意欲を高める
2. 適切な職務資源の提供
- 自律性の向上:裁量権の拡大
- スキル活用度の向上:能力に応じた業務配分
- ソーシャルサポート:上司・同僚からの支援体制
3. 継続的なフィードバック
- 定期的な1on1ミーティング
- 成果に対する適切な評価
- 改善点の具体的な指導
従業員エンゲージメント向上のための施策
1. 組織文化の醸成
- 明確なビジョン・ミッションの共有
- 価値観の浸透活動
- 心理的安全性の確保
2. 人材開発制度の充実
- キャリアパスの明示
- スキルアップ支援
- 内部登用制度の活用
3. 職場環境の改善
- 働き方の多様性確保
- 福利厚生の充実
- オフィス環境の整備
4. コミュニケーションの活性化
- 経営陣との対話機会
- 部門間連携の強化
- 社内イベントの開催
政府の取り組みと支援制度
日本政府も働きがい向上に関する取り組みを積極的に推進しています:
厚生労働省の取り組み
- 職場におけるメンタルヘルス対策
- ストレスチェック制度の義務化
- 働き方改革関連法の整備
経済産業省の取り組み
- 健康経営優良法人認定制度
- 従業員の健康管理を経営的視点で評価する制度
労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究
- ワークエンゲージメントに関する継続的な研究
- 雇用形態の多様化とエンゲージメントの関係性分析
まとめ:適切な理解で効果的な人材マネジメントを
ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントは、どちらも重要な概念ですが、その違いを正しく理解することが効果的な活用の第一歩です。
主要なポイント
- ワークエンゲージメント:仕事そのものへの心理的な関与度(活力・熱意・没頭の3要素)
- 従業員エンゲージメント:組織全体への愛着と貢献意欲
- それぞれ異なる測定方法と改善アプローチが必要
- 両方を向上させることで、より包括的な効果が期待できる
現代の人材マネジメントにおいては、両方の視点を持ちながら、従業員一人ひとりが最大限の能力を発揮できる環境を整備することが求められています。
特に日本企業では、若い社員のワークエンゲージメントが低い傾向にあるため、キャリア初期からの適切な支援と、ジョブ・クラフティングのような主体的な働き方を促進する取り組みが重要です。
定期的な測定と継続的な改善により、従業員と組織の両方が成長できる好循環を生み出しましょう。