人事制度改定② ビジョン・制度改定コンセプト
前回では「人事制度改定の全体フレーム」や「人事制度改定の方向性設定」までを進めてきました。
※前回の投稿はこちら
次に行うのが、あるべき姿を達成するためには、どのような人材が必要か、人事制度をどのようにするかを想定することです。これを「人材ビジョン」「人事制度改定のコンセプト」と呼びます。
それらを基準として、そのような人材を採用あるいは育成して増やしていくために、どんな人事制度(等級、評価、報酬)が必要なのか、という順番で考えていきます。
つまり「人材ビジョン」や「人事制度改定のコンセプト」の設定は、前回の投稿で述べた「現状分析・改定方向性」と合わせて人事制度改定を進める上での判断軸になります。
1.人材ビジョンの役割
・プロジェクト内部での共通認識をつくるための人材ビジョン
ここでの「人材ビジョン」とは、求人募集要項に記載されたり、社員への行動規範として掲げたりするものではなく、あくまで人事制度改定のために作成するものです。
プロジェクトメンバー内部や経営層との間で、「どのような人材に報いていきたいのか」ということの認識を共有するために作成するものです。
これが共有されていないと、制度改定の具体化が進みません。そのために、「人材ビジョン」(もしくは、「人事ポリシー」などとも呼ばれます)として言語化し、共有します。
・経営戦略推進に重要となる人材を明確化
人事制度改定の目的は経営戦略を実現することなので、人事制度を改定することによって報いていきたい人材像は「これからの戦略」を推進していくために力を発揮してくれる人材です。このような人材を「コア人材」と呼びます。
もちろんすべての社員は事業にとって必要ですが、分配できる経営資源が限られている限り、今後の経営戦略実現のために有用という観点から、特に重視すべきコア人材を定めることは必要です。そして、人事制度改定は、コア人材にどう報いていくのかという観点から実施されます。
もし「全社員を幸せにする人事制度」といったことがプロジェクトで掲げられてしまうと、それは結局、戦略がないと同じで、制度に落とし込むことはできません。

2.人材ビジョンの各要素と検討ステップ
人材ビジョンは下記図のように構成されます。まず下の「基本姿勢」「技術&知識」「経験」を埋めていき、最終的にトップにある「人材像」が導き出されるイメージです。
順番に関しては「技術&知識」からスタートするのが一般的です。

①技術&知識
戦略実現のために、どのような技術と知識が必要なのかを、まず考えます。
例えば、新規事業を開発していく戦略ならば、顧客ニーズを探り最適な販促施策を立案するマーケティング力が必要となるでしょう。このように、経営戦略に紐付けて、そこに必要な「技術と知識」は何なのかを考えて記載します。
②基本姿勢
基本姿勢は、どのような姿勢で仕事に臨んで欲しいかという点をまとめます。「仕事に対する熱意」や「仕事に取組む姿勢」と言い換えてもいいかもしれません。例えば、技術と知識は高い水準だったとしても、消極的な態度で指示待ちの姿勢に終始していることでは困るなど、戦略のタイプにより、求める基本姿勢は変わってくるでしょう。
③経験
①技術&知識 ②基本姿勢 のある人だったら、こういう経験をしてきているはずだ、あるいはしていて欲しい、と考えられるものをまとめます。
人材ビジョンは、あくまで制度改定の判断軸をつくるためのものなので。実際の採用基準、昇進基準などではありません。従って、例えば「商社で仕入業務を3年以上経験しいていること」といった具体的な内容ではなく、「社内で新しいことを実施した経験」といった、少し抽象的な内容を入れます。
④人材像
①~③までを書き出したら、最後にそれらを一旦「人材像」としてまとめます。最初は仮置きとして、少し粗い感じでまとめれば大丈夫です。
それから再度、「基本姿勢」「技術&知識」「経験」をそれぞれ相互に照らして、全体を俯瞰しながら、過不足や矛盾がないかを整理します。すると、それらから外したり、逆に足したりする要素が出てくると思いますので、精査していきます。最終的にひとまとまりの文となった「人材像」を策定します。
また、今後のプロセスを進める中で、人材ビジョンを修正することもあり得ますので、ここではあまり時間をかけず、枠を埋めていくイメージで取組むことをおすすめします。
・留意点
人材ビジョンは、制度改定の判断軸を決めるもので、細かな採用条件などを詰めるものではありません。そのため、細部まで考えすぎると本質を見失いますので、むしろ余分なものをそぎ落として、シンプルなものをつくる意識を持つといいでしょう。
そのために、基本的には、おおよそ1時間も考えれば十分です。例えば「企画力」がいいのか「デザイン力」がいいのかといった言葉の選び方や表現方法に悩むことはあるかと思いますが、時間がかかるのはその点くらいで、ある程度の抽象的な視点を持って望むのがいいと思います。
また、前述したように、「これが自社をリーディングする社員」といえるコア人材を描くという目的に常に立ち返ることを意識し、逆に「遅刻をしない」など当たり前のことや否定的な表現は入れないようにしましょう。

3.人事制度改定のコンセプト
次に、「人事制度改定のコンセプト」について検討していきます。ここで検討するコンセプトは、新しい人事制度は要するにどのような制度なのかについて端的に方向性を示すものです。人事制度改定は、これから詳細設計をしていけばいくほど、枝葉の議論に終始し、部分最適なものになりがちです。
また、現制度との重要な改定ポイントを忘れ、安易な現状維持に陥りがちなときに、迷いをはらす灯台のような役割を果たします。ここでは、「序列のつけ方」「評価のメリハリ」の2軸で現制度と対比して新制度のコンセプトを明示することで。プロジェクト推進における指針となる判断軸を明確化します。
・序列のつけ方
等級運用において、職能等級のような保有能力を軸として人材の序列を行う能力基準とするか、役割等級(職務等級)のような任せる仕事の内容・職責を軸として人材の序列を行う仕事基準とするかを検討します。
・評価のメリハリ
評価の施策・運用について、例えば相対評価や定量評価などの運用強化を行い評価のメリハリを積極的に促す「アグレッシブ」なコンセプトとするか、絶対評価やプロセス評価などの運用強化を行い評価のメリハリをそこまで促さない「マイルド」なコンセプトとするかを検討します。
