パークPFI事業と沖縄県の取り組み状況:民間活力で変わる公園の未来

はじめに
近年、全国の都市公園で注目を集めている「パークPFI事業」。従来の公園概念を大きく変革し、民間企業の創意工夫により魅力的な公共空間を生み出すこの制度について、全国の動向から沖縄県での具体的な取り組み状況まで詳しく解説します。特に、沖縄県では漫湖公園でのスターバックス開業や新都心公園でのコナズ珈琲出店など、注目すべき事例が続々と生まれています。
1.パークPFI事業とは
パークPFIとは、2017年6月に施行された改正都市公園法によって創設された「公募設置管理制度」の通称です。正式には「公募設置管理制度」と呼ばれ、都市公園において飲食店、売店などの収益施設(公募対象公園施設)の設置または管理を行う民間事業者を、公募により選定する制度です。
制度の特徴とメリット
パークPFI制度の最大の特徴は、民間事業者が得た収益の一部を公園整備に還元することを条件に、以下の特例措置が適用される点です:
事業者への特例措置
三者それぞれのメリット
この制度により、公園管理者(自治体)は財政負担を軽減しながら公園の質的向上を図ることができ、民間事業者は長期的な視野での投資・経営が可能となります。利用者にとっても、より充実したサービスと快適な公園環境を享受できるようになりました。
従来のPFI事業とは異なり、都市公園法に基づく設置管理許可制度をベースとしているため、比較的導入しやすい制度として多くの自治体から注目を集めています。
2.全国の状況
急速な普及状況と統計データ
パークPFI制度は2017年の創設以来、全国で急速に広がりを見せています。国土交通省の最新データ(令和3年度末時点)によると、全国64自治体等において102箇所でPark-PFIが活用されており、そのうち39箇所では既に公募対象公園施設が供用開始されています。
年度別導入状況の推移
- 平成29年度:4箇所(制度創設初年度)
- 平成30年度:19箇所(約5倍の急成長)
- 令和元年度:23箇所
- 令和2年度:25箇所
- 令和3年度:31箇所
このように、年々導入箇所数が着実に増加しており、制度への関心の高さがうかがえます。さらに注目すべきは、130箇所において活用が検討されているという状況で、今後更なる拡大が予想されます。
地域分布と導入傾向
全国の導入状況を見ると、東京都や大阪府などの大都市圏だけでなく、地方都市でも積極的な活用が進んでいます。特に、既存の都市公園の魅力向上や地域活性化を図る手段として、人口規模を問わず多くの自治体が注目している状況です。
北海道から沖縄県まで、全国各地で多様な事例が生まれており、各地域の特色を活かした公園づくりが進んでいます。
3.好事例① 天王寺公園(大阪府大阪市)
「てんしば」の成功モデル
大阪市天王寺公園のエントランスエリア「てんしば」は、パークPFI制度の先駆的な成功事例として全国から注目を集めています。2015年10月にリニューアルオープンしたこの事例は、現在まで続くPark-PFI盛り上がりの先陣を切った「てんしばモデル」と呼ばれる成功事例となっています。
都市の中心部にありながら開放的な芝生広場が広がる「てんしば」(出典:公共R不動産)
事業概要と投資規模
基本データ
- 事業面積:約2.5ha(天王寺公園全体約26haのうち)
- 事業期間:20年間(2015年~2035年)
- 運営事業者:近鉄不動産
- 総投資額:約14億円(全額民間負担)
- 年間公園使用料:約3,000万円
施設構成と魅力
てんしばには以下のような多彩な施設が配置され、多世代が楽しめる空間を実現しています:
商業・サービス施設
- カフェ・レストラン
- フラワーショップ
- 総合ペットサービス
- コンビニエンスストア
レクリエーション施設
- 子供の遊び場(有料)
- フットサルコート
- 約7,000㎡の開放的な芝生広場
変革の背景と成功要因
変革前の状況 それまでの天王寺公園は柵に囲まれ入場料が必要な閉鎖的な空間で、特別な遊具があるわけでもなく、利用者は限定的でした。
成功の秘訣 てんしばの成功は、大きな芝生広場に気の利いた飲食店や店舗の組み合わせという基本コンセプトにあります。誰もが自由に利用できる開放的な空間へと生まれ変わったことで、地域住民から観光客まで幅広い層に愛される場所となりました。
この成功モデルは全国のPark-PFI事業の参考事例として広く研究され、各地での事業展開に大きな影響を与えています。
4.沖縄県のパークPFI事業状況
沖縄県内での導入状況と特色
沖縄県においても、パークPFI制度の活用が着実に進んでいます。国土交通省の資料および各自治体の発表によると、沖縄県内では以下の公園でPark-PFI事業が展開されています:
導入済み・計画中の主要公園
- 漫湖公園(那覇市):2025年9月供用開始済み
- 新都心公園(那覇市):2025年度内開業予定
- コザ運動公園(沖縄市):2023年8月供用開始済み
- 与那古浜公園(与那原町):2024年3月事業者選定完了、2026年春頃供用開始予定
沖縄県の特色と課題
沖縄県でのパークPFI事業は、本土とは異なる独特の環境条件と社会背景を持っています:
特殊な環境条件
- 亜熱帯気候:台風、高温多湿、スコールなどへの対応
- 観光立県:観光客と地域住民双方のニーズへの対応
- 米軍基地返還跡地:跡地利用という沖縄特有の課題
期待される効果
- 観光資源としての公園活用
- 地域コミュニティの活性化
- 持続可能な公園運営の実現
- 経済効果と雇用創出
5.沖縄県における先行事例:漫湖公園(那覇市)
沖縄県初の本格的Park-PFI事業
那覇市の漫湖公園鏡原側では、2025年9月1日に県内初の本格的なPark-PFI事業が供用開始となりました。この事業は、「安心・安全な魅力あふれる交流拠点」をコンセプトに、地域の新たなランドマークとして注目を集めています。
事業の3つの目標
- オープンカフェを中心とした人の集う場所
- 誰もが楽しめる運動環境の提供
- 自然を活かした安全安心な空間づくり
施設構成と整備内容
公募対象公園施設
- オープンカフェ(スターバックス コーヒー 那覇鏡原店)
- 建築面積:191㎡(RC造平屋建て)
- 店舗面積:175.54㎡
- 座席数:50席(店内36席、テラス席14席)
- 営業時間:7:00~21:00
- 運営事業者:オーエスディー共同企業体
特定公園施設(那覇市管理)
- 店舗前広場:1,544㎡(散策を楽しめる空間)
- 駐車場拡充:2,164㎡(47台→67台に20台増設)
- 遊具広場:711㎡(低年齢対象の遊具とデッキ設置)
- くじら広場:483㎡(バスケットボールプレイグラウンド設置)
地域シンボルとしての工夫
「くじら広場」の活用 地域のシンボルである「くじら広場」には、3on3やシュート練習が楽しめる全天候型のバスケットボールプレイグラウンドを設置。アーバンスポーツを通した交流の場として、若者世代にも魅力的な空間を提供しています。
バリアフリー設計
- 既存の和式トイレを撤去し、カフェ内に誰もが利用できるトイレを設置
- バリアのない誰もが一緒に楽しく遊べる空間への園路改修
- 安全性向上のためのコーナーガードや防球ネット設置
事業期間と持続可能性
事業期間:公募対象公園施設の設置許可日から20年間 認定日:令和6年8月21日
長期的な視点での公園運営と地域貢献が期待されており、沖縄県内でのPark-PFI事業の成功モデルとなることが注目されています。
スターバックス鏡原店
スターバックス鏡原店は、オープンして間もないこともあり、非常に清潔感あふれる店舗となっています。

漫湖公園に来園する住民や観光客とのコミュニケーションとして、ボランティア活動の募集やピクニック向けスナックセットの販売など、様々な工夫をしています。


今後の展望
沖縄県のPark-PFI事業は、これらの成果を踏まえ、今後さらなる展開が期待されています。那覇市の新都心公園をはじめとする新たな事業も控えており、沖縄県全体での制度活用が加速することが予想されます。
また、これらの成功事例は、沖縄の環境条件下でも持続可能な公園運営が実現できることを証明しており、同様の気候条件を持つ他地域への応用も期待されます。
パークPFI事業は、公園という身近な公共空間を通じて、民間活力の活用、地域活性化、防災力強化、持続可能な都市づくりなど、現代社会が抱える様々な課題解決に寄与する可能性を持っています。この取り組みは、その可能性を具現化した事例として、今後も注目を集め続けることでしょう。
参考資料
- 国土交通省「Park-PFI等の制度活用状況」
- 内閣府「PFI事業の概要」
- 那覇市「漫湖公園鏡原側Park-PFI事業概要」
- 那覇市「新都心公園Park-PFI事業」
- 沖縄振興開発金融公庫「沖縄地域PPP/PFIプラットフォーム資料」
- 公共R不動産「てんしば事例」
- Park-PFI推進支援ネットワーク「実施事例」
前回の投稿はこちら