人事制度改定④ 評価

1.評価の役割

 ここでは、人事制度の2つ目の主要要素である評価について見ていきます。

評価は等級と密接な関係があります。必要に応じて「等級」も参照しながら読み進めてください。

※前回までの解説はこちら

人事制度改定③ 等級

人事制度改定② ビジョン・制度改定コンセプト

人事制度改定① 現状分析・改定方向性

・評価には社員行動と戦略とを繋げる役割がある

 「経営戦略実現のための人事制度改定」という前提で見たとき、評価の最も重要な役割は「戦略実現のための行動変容を促進させる」という面だといえます。

 新しい戦略を実現するためには、社員にも、それまでとは異なる仕事への取組み方、つまり、行動や態度、考え方の変容が求められます。社員がそれまでと同じ仕事のやり方や考え方をしていたのでは、組織全体として同じような成果しかもたらされません。

 そこで、戦略実現に向けた社員の変容を促すための「仕掛け」の1つとして評価を用いるのが、人事担当者の重要な任務になります。

 これには、①目標管理制度をはじめとした成果評価(定量評価)によって、業績に直結する具体的な業務内容活動を変化させるという面と、②行動評価などの定性評価によって、もう少し日常的な、仕事へ取組む姿勢や考え方を変化させるという2つの面があります。

 価値観や考え方そのものは、評価の対象にはなりませんが、評価を通じて行動や態度の変容を促すことで、結果的に、それを生み出しているベースにある価値観や考え方を変えていくことにつなげるというわけです。

 このようにして、戦略の実現に向けた社員の役割や目標を明確化して、行動をディレクション(方向付け)あるいはコントロールすることが、評価の重要な役割となります。

[出所]野崎洸太郎、山田博之、小林傑著、『戦略的人事制度のつくりかた』を元に著者作成

・主な評価の機能

 それ以外にも、評価は様々な機能を持ちます。

 例えば、昇格・降格などの処遇や給与、賞与などを決める基準となる役割です。

 また、管理職がどのように部下を育成・指導すればいいのかの基準となる役割も持ちます。そして社員各自の能力を把握し、必要な能力開発をするためにも、評価が参照されます。

2.評価制度の詳細分析

 等級制度と同様、評価制度も前述の「人材マネジメントの現状分析・改定の方向性検討フレーム」に立ち返り、評価の制度面と運用面の現状を分析し、課題を抽出しておきましょう。

人事制度改定① 現状分析・改定方向性

 

現状の評価制度を、成果評価(定量評価)と、行動評価(定性評価)に分け、それぞれについて制度面と運用面を見ていきます。

成果・行動評価の分析ポイント

[出所]野崎洸太郎、山田博之、小林傑著、『戦略的人事制度のつくりかた』を元に著者作成

3.評価の種類

 次に評価の種類について確認します。

 評価には「その人のどこを、どう見るのか」によって様々な種類があります。また、その評価の種類によって、行動変容を促す対象も異なります。

 前提として、評価する対象者にまつわる様々な属性を「成果」「行動」「技術・技能」「知識」「考え方・価値観」の5つに分類します。

 「成果」と「行動」は、顕在的要素であり、「技術・技能」「知識」「考え方・価値観」は、潜在的要素です。

 基本的にこれらの全てが、何らかの評価対象になりますが、評価の枠組みは異なります。

・狭義の評価(人事考課)は、顕在化要素を中心に見る

 顕在化された成果や行動について評価するのが、いわゆる「評価」あるいは「考課」と呼ばれる仕組みです。一般的には「人事制度の中の評価」=「評価」という意味で使われることがあります。正確に言うと、ここでいう「評価(考課)」は、評価制度の一部の要素なのです。

 評価(考課)には、成果を対象として評価する部分があります。これは「結果評価」「業績評価」「成果評価」「貢献評価」など、呼び方は企業によって異なります。この部分への評価を通じる社員の業務目標や役割に対する行動が、コントロールの対象となります。

 また、評価(考課)には「行動」や「技術・技能」(潜在的)を評価する部分もあります。これは「行動評価」「コンピテンシー評価」「能力評価」などと呼ばれるものです。この部分への評価を通じて、社員の日常的な態度、行動、あるいは、能力開発の内容や方向性をコントロールすることを目指します。

・潜在的な部分への評価

 次に主として潜在的な部分への評価をする方法です。まず「技術・技能」については『スキル評価』、「知識」については『知識評価』、そして「考え方・価値観」については『適性評価』がそれぞれ実施されます。知識評価は、業務上の学習の方向性や内容をコントロールします。また、適性評価はベースとなる仕事観、価値観などに関するもので、意図的なコントロールというより、間接的に影響を与える程度になるでしょう。

[出所]野崎洸太郎、山田博之、小林傑著、『戦略的人事制度のつくりかた』を元に著者作成

 昇給・昇格や賞与の決定などの基本的な処遇には、狭義の「評価(考課)」を中心に行います。

 評価の中でも、成果の評価(定量評価)は、当該期を基準とした短期的な評価になるので、給与にも影響は与えつつ、主に賞与などの短期的処遇に反映させるのが良いとされています。

 一方、行動評価のような定性評価は、もう少し長いスパンでの変化を見るべきものです。これは賞与よりも長期間に渡って影響がでる昇給・昇格により強く反映させた方がよいといえます。

 一方、「スキル評価」「知識評価」「適性評価」などが利用される場面としては、一時的な手当や表彰などの場面があります。また、処遇とは少し異なりますが、採用時には、主に潜在的な評価が重視されます。

 昇格、特に一般職から管理職になるといった大きな変更や、新たに設立するライン長への登用などの際には、評価(考課)を利用するだけではなく、潜在的な側面の評価、さらには多面評価、試験・面談、社外の専門機関によるアセスメントなどの実施・活用が増えてきています。

4.行動評価のつくり方

 行動評価は、社員の行動や態度について、何から何まですべてをチェックし、評価することはもちろんできません。そこで、一般職であれば業務遂行の際に、管理職であればマネジメントの際に求められる、特に重要なポイントとなる行動を絞り込み、そこを評価します。その評価を通じて、戦略実現のために望ましい行動へと導く役割を果たします。

 行動評価項目は、別投稿で説明した「等級定義」と表裏一体の関係にあります。従って、すべての等級についてしっかりした等級定義ができていない場合は、まず等級定義の設計から着手しなければなりません。

 等級定義と照らして、各等級において「評価される行動は何か」または「標準とみなされる行動は何か」を記載していきます。

 

 行動評価は、これらの項目が社員の行動を「強制」すべき行動の具体的な内容ということになるのです。

 なお、行動評価では、1つの等級につき、設定する項目は8項目以内が望ましいです。それ以上設定すると細かすぎて運用が難しくなります。等級定義の中で、当該等級に特に求められる、又は期待する項目を厳選していくイメージです。

[出所]野崎洸太郎、山田博之、小林傑著、『戦略的人事制度のつくりかた』を元に著者作成

①行動評価を設定する前提となる各等級定義を確認し、求められる役割・職責、発揮能力の状態を把握する

②「PDCAサイクル」を軸に各等級定義に沿った行動がとれている状態を診る着眼点(行動評価項目)を設定する。共通軸に基づき、項目を設定することで、等級の違いによる求める行動評価項目の違いや、行動レベルの違いが表現しやすくなる

③行動評価項目についての具体的な期中行動が分かる詳細定義を設定する。詳細定義についても、等級間の違いが分かるようにポイントとなる点を明確化する

5.MBOを実現する目標管理の仕組みづくり

 目標管理制度は、MBO(Management by Objectivesの頭文字)とも呼ばれています。MBOの概念を最初に提唱したピーター・ドラッカーは、この後に「Self Control(自己統制)」と言う語をつけて「MBO&SC」と呼んでいたそうです。

・ドラッカーによる「MBOSC」とは

 「MBO&SC」の意義は、期初に何をするのかという役割目標を明確にすることで、期中における達成に向けたSelf Controlのプロセス、つまり自律的、主体的な行動管理を引き出そうという点にあったようです。

 管理者側から見ると、目標から逆算した進捗状況を期中に随時把握しておけば、各自の主体性によるその遂行を支援することができるというわけです。

 ところが、日本では、前半のMBOだけが強調されて、期初に設定された目標が期末の結果としてどれだけ達成されているか「だけ」を把握して評価する、つまり、目標達成したのかどうかだけを見るような、結果主義のツールのような捉え方をされてしまっています。

 それでは、評価ツールとしての有用性は低くなります。MBOは、期中に主体性を発揮した行動ができたかどうかというSCと、その遂行への支援をセットとして活用されてこそ、真価を発揮するものなのです。従って、「MBO」と述べられたときであっても、その背景には、本人が主体的に役割遂行を果たそうとすることを支援する仕組みが組み込まれていなければなりません。

MBOを実現するための評価シート作成のポイント

 MBOの考え方を実現するためには、評価シートの作り方が非常に重要です。これが絶対というわけではありませんが、ポイントとなる点は以下になります。

[出所]著者作成

①会社・組織目標と個人の担当役割(ミッション)の明確化

 個人からスタートするのではなく、必ず組織全体の目標からスタートします。そしてその中で個人の役割が何なのかを定義します。

②「目的」「目標」「プロセス」を区分して明確化

 目標設定においては、目標達成状態とプロセスの実行状態を区分して評価できるようにすることが、非常に重要です。

 評価時点で、目標達成状況が良かったのか、それとも、それにむけたプロセスが良かったのかを混同して、玉虫色の評価にしてしまう会社が多いのです。結果として業績が達成できたかどうかだけを評価することは良くないでしょう。しかし逆に、過度にプロセスを重視して、業績達成度合いが低いときに、プロセス評価を調整弁にするような運用も不適切です。

 両者をきちんと切り分けて、別個に評価できるような評価シートにしておくべきです。

③期中の進捗確認の仕組み化と、必要に応じた目標の見直しのルール化

 ビジネス環境の変化が激しい昨今では、期初に立てた目標が、期中にずっと変わらず適切であることが難しくなっています。期中にも定期的、継続的に進捗状況を確認しながら、必要に応じて目標設定を見直せる仕掛け(中間面談など)が重要です。

 ただし、これは「目標が達成できそうもないときには、目標を下げた方がいい」という話ではありません。あくまで、目標設定段階での前提となっていたビジネス環境や所属組織の目標などが変わった場合、本人の目標や求められるプロセスも変える必要があるということです。

 よく評価には、被評価者の納得感が重要だと言われますが、納得感の前提には、その目標が、きちんと目指すべき目標であることが前提です。社員に「そんな目標を目指しても意味がないのでは?」と感じられるようでは、評価への納得感も得られません。

6.成果評価・行動評価の評価段階・ウェイトの設計

 次に、成果評価、行動評価の評価段階のつくり方や処遇などに反映させるための評価を出す際のウェイトのつけ方を解説します。

・成果評価の評価段階・基準例

 成果評価は、その業績達成度合いに応じて評価段階を定めます。その際に、評価の段階数を決める必要があります。一般的には5段階が適切です。

 

・行動評価の評価段階・基準例

 行動評価は、行動評価項目の期中における実行度合いに応じて、評価段階を定めます。行動評価は成果評価と異なり、明確な目標設定をした上で評価するわけではないので、評価が曖昧になりがちです。行動評価のつくり方で説明したポイントに従って評価項目を作成し、期中に具体的な行動の表出レベル・頻度を評価基準とし、5段階で評価するのが運用しやすいと思います。

[出所]野崎洸太郎、山田博之、小林傑著、『戦略的人事制度のつくりかた』を元に著者作成

・評価は、会社の考え方を示すメッセージ

 成果評価と行動評価のウェイト、あるいは、それぞれの評価の中でも、どの項目を重視するのかは一律であってはならず、等級や処遇によって変えるべきです。これは、一般職と管理職など、それぞれにどうあって欲しいかという会社の考え方を示すメッセージになります。

 管理職には、より組織の成果評価に重きを置いたウェイト割合にすべきですが、これは自分の行動だけでなく、部下も含めた全体への責任を持って欲しいというメッセージになります。

 一方、一般職においては行動評価のウェイトを高くし、その中でもより低位等級になるほどその割合を増やせば、「当社の社員としてふさわしい行動を身につけて欲しい」というメッセージを伝えることになります。

 このように評価は、会社として社員にどのようになって欲しいかという会社のメッセージでもあるのです。

7.評価決定方法の設定

 評価項目や評価段階を設計した後は、その決定方法を決めなければなりません。

・絶対評価か、相対評価か

 評価の基準として、他社員と関係なく、個人の評価をそれぞれ評価基準と照らして評価する「絶対評価」と、組織やチームのメンバーに序列をつけて、必ず一定の評価レベルに一定割合の社員を割り当てる「相対評価」があります。

 これは、一般的には絶対評価の方がよいと言うでしょう。

 「あなたの成果と行動は、評価基準と照らすと、この評価になります」と伝えられれば、被評価者も納得しやすいでしょう。また、評価を上げるためにはこれを実現できればいい、ということも客観的に示せるので、「役割・目標の明確化」という評価の役割にもマッチします。

 しかし、現実的には、大きな差がつく評価になることを評価者が避けるために、中央付近の評価となる割合が実際より増えたり、より寛大な方向(良い評価)への評価が増えたりすることがあります。つまり、実態を反映していない評価になってしまうことが、絶対評価の運用においてはよく見られるのです。

 評価者としては「みんな頑張っているのに、悪い評価は与えにくい」と感じてしまうことが要因です。実際、どの会社でも、よほど変な人がいない限り「みんな頑張っている」ことは事実だと思います。しかし、それでは評価の意義が薄れてしまいます。

 そこで、そのような組織文化が払拭されるまでの期間、相対評価を導入するという考え方もあると思います。

 相対評価にすると、例えば5段階評価の各段階に20%ずつ割り当てる、など決まってしまうので、強制的に評価がばらつくことになります。そのようなやり方の中で、適切な評価ができる風土が整ってきたところで絶対評価に変更するというやり方もあります。

8.昇格・降格条件の設定

・昇格条件設定のポイント

 昇格条件として大切なのは、評価(考課)を基軸としながらも、評価(考課)以外の項目も採り入れることです。

 たとえば「昇格審査」という形で論文面接を入れるというのは、よく用いられます。特に管理職への昇格の場合は、経営層へのプレゼン審査なども実施されています。

 評価(考課)は、等級定義に照らして、業務において求められる行動や態度がきちんと取れているか、また、成果が出せているかということに基づいてなされるものです。この点もきちんとみていく必要があります。

 しかし、前述した管理職への昇格や課長から部長への昇格などは、それまでとは大きく異なる質の職務、貢献が求められる節目になります。そこで、評価(考課)以外でも、適性などを審査することが必要になるのです。特に上級職の場合は、外部機関によるアセスメント研修などを実施することも増えています。

 これによって、マネジメント適性がない人を管理職にしてしまうことで生じる、ハラスメントなどのリスクを防止することにも繋がります。

 よく、スポーツ界で「名選手が必ずしも名監督になるわけではない」と言われますが、それと同様に、業務において高い成績を上げたプレイヤーとして優秀な人が、必ずしも管理職への適性があるとは限らないのです。

 それをチェックするためには過去の事実を確認するための評価(考課)だけでは不十分であり、それ以外の視座が必要になるということです。

・降格条件のポイント

 降格条件設定のポイントは、「降格候補(降格者ではなく、あくまで候補)」の人が、きちんと析出されているような条件を設定することです。

 一般的に、人事において降格者を出すことにはネガティブに捉えがちです。確かに降格者を自動的に決めるような仕組みはあまりよいものとはいえませんが、降格の候補者を適切に析出することは、決してネガティブなことではありません。

 組織の中において、任命された職場と本人の適性が合わない、あるいは、上司との人間的な「そり」が合わないということは、どうしても生じてしまいます。そういった原因で活躍しきれていない人を、降格候補者としてきちんとあぶり出すことができ、その原因を突き止めることができれば、その人がより活躍できる場に配置転換するなどの対応が可能になります。

[出所]野崎洸太郎、山田博之、小林傑著、『戦略的人事制度のつくりかた』を元に著者作成

【ポイント】

・マネージャー層は成果重視ながら行動も相応に評価し、マネジメントの質向上を後押しする。

・スペシャリスト層は結果重視。一方でスタッフ層はプロセス・行動を加味する。


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