人的資本開示① トレンドの背景
人事領域において、「人的資本」という名前を見ない・聞かない日がないという程、トレンドとなってきている(ような気がする)人的資本開示。
実務家として最もインパクトがあったのは、2023年3月期から、「男女の賃金格差」「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」を有価証券報告書に記載することが義務化されたことです。
これまでは、従業員数の報告くらいの関連しかない領域でしたのに、結構人事寄りのデータが、一見縁遠い「有価証券報告書」に記載されることになったのですから。
昨今、様々なテーマで取り上げられるようになった「人的資本開示」について、連載テーマとしていこうと思います。
人的資本開示 3つの背景
背景を端的に表現すると
1.金融市場(機関投資家)の認識変化
2.人事領域へのクラウドサービス流入
3.働き方の多様化
といった整理になるかと思います。
1.金融市場(機関投資家)の認識変化
無形資産、とりわけ人的資本を大切に育み、それを価値向上につなげることを情報開示している企業を世界の「ESG投資家」がとても関心を寄せるようになりました。欧州が先行していましたが、昨今、アメリカもキャッチアップしてきているようです。
日本においても岸田総理が、2022年1月17日の国会演説で「付加価値の源泉は、人にある」と述べているように、急速に人的資本開示を進めようとしています。
2. 人事領域へのクラウドサービス流入
人的資本開示のためには、様々な人事情報を収集・管理・分析し、KGI/KPI化をしていかなくてはならないようです。昨今、人事領域のクラウドサービスは非常に充実してきていますし、各クラウド運営会社も、人的資本開示への対応を積極的にPRしていますので、人事データ課題解決の敷居がますます下がっていくと思います。
なお、S&P500(アメリカを代表する上場企業500選)の5割以上は、「ワークデイ」をいう人事クラウドサービスを利用しているようです。
人事クラウドサービスが世界中で広がってきたことを背景として、2018年12月に生まれたのが、人的資本マネジメント領域における世界初の国際標準規格「ISO 30414(人的資本開示ガイドライン;Human Capital Reporting Guidline)」です。
このガイドラインの公表以降、開示義務化を進める国が増えてきています。このような大きな流れが日本の政策当局担当者を刺激し、日本でも急速にキャッチアップしようという動きになったようです。
3.働き方の多様化
コロナ禍以降、世界中でテレワークが当たり前になり、働き方の価値観も大きく変化しました。会議や仕事がリモートでこなせるようになったという変化は、揺り戻しこそあるかもしれませんが、不可逆的という意見が多いような気がしますし、筆者自身も、不可逆的であって欲しいと思っています(テレワークの方が効率が上がる業務が確実にありますし、通勤によるCO2排出も減らせます)。
また、優秀な人材の多くが本業での経験を活かし、他社や起業等で自らの知見、経験、スキルを活かしてさらなる成長を図ろうとしています。これはIT分野やミレニアル世代、Z世代の働き手に多く見られる傾向があるようです。
経営者や人事担当者は、この働き手の『価値観の変化』を様々な人事施策に反映させて、企業価値の向上に結び付けていくことが必要となってきています。